怖い床屋
床屋の前によくある、回転しながら上昇し続ける模様が描かれた物体が床屋の前に置いてある。住宅街ににちょこんとある、さも人々に愛されていそうな床屋。私はこれからここに入り、髪を切る。この辺りには仕事の都合で先週越してきたばかり。よってこの床屋に入るのも初めてだ。
ガラガラ〜
予想通り、簡素な空間が広がっている。ハサミを持った白髪混じりのおじいさん一人、中年の眼鏡をかけたおじさん一人がいる。椅子は一つしかない。一つしかないなんて、珍しいな。ちょうど眼鏡をかけたおじさんが椅子に座った時。床屋、スタート。
「今日は、如何なさいますか?」
「はい、髪を切って頂きたいのですが。」
「かしこまりました。」
そういうと店員おじさんはみたこともないほど大きなハサミを取り出し、ゆっくりと客おじさんの胴体を真っ二つに切断した。
ヂョキン
ぬえぁっ
断末魔とともに、客おじさんの上半身はぬるりと床に滑り落ちる。こまが回転する力を失い、床に側面をぬるりとくっつけるシーンを思い出す。あっという間に、血の海だ。店員おじいさんははさみを椅子に立てかけると、店の隅にある掃除用具箱に近寄っていく。猫背をしながらよちよち歩く。可愛らしい。掃除をするつもりなのだろうか。
お、恐ろしい事が起きたぞ。
「何をやっているのですか。」
私は驚き、尋ねた。
「かみをきれといわれたものでね。お客様は、神様ですから。」
迷惑そうな顔で店員おじさんは答えた。
ひゃあ怖い〜
たったたたった、たたたった、たったたたった、たたたった、たったたたった、たたたった、たったたたった、たたたった
逃げて、公園に来た。青い空と白い雲に見守られながら、親子連れが仲良くキャッチボールをし、幼い人々が楽しそうに鬼ごっこをしている。ミミズはぬめりと土を這い、バッタは元気にぴょんでいる。
「やあ、今日も元気にぴょんでいるね。」
バッタに話しかける、が、返事はない。返事は帰ってこない。それでいい、それでいいのだ。
私は満足し、コーヒーを一杯口に運ぶ。やはり公園はいい、公園はいいなあ。そういえばあの爺さんは逃げた私を追ってこないな。彼もまた、髪と神を間違えただけの、善良な市民なのかもしれない。
ピヨピヨ、ピヨピヨ(鳥の発声
完
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