ヘソの王

 バブーバブーバブー、バブーバブーバブー


 赤ちゃんが生まれました。


「へその緒を切りますよ〜。」


 看護婦さんがお母さんに声をかけ、


 ちょきん


 へその緒を切り、木箱に入れました。へその緒は静かに横たわりました。(しかし本当はへその緒ではなくへその王でした。ふっふっふ、実は私はへその緒ではなくへその王なのだ、と、へその王は思っていました。)


「ほらお母さん、赤ちゃんが生まれましたよ〜。かわいいですね〜。」


「あばばば、かわいいでちゅね〜。」


 お母さんは赤ちゃんに笑いかけ、なでなでします。


 おぎゃぎゃぎゃぎゃー


 赤ちゃんは泣いています。


 夜になりました。夜の病院。こつこつこつ。看護婦さんが廊下を歩く透明な音。お母さんは病室で一人眠っています。ベットは六つありますがお母さん以外に人ははいません。その脇の棚にはへその王が入った木箱が。


 むくり


 へその王は夜の匂いを感じ起き上がりました。木箱の蓋をずらし、外界に身をさらけ出します。


 頃合いだぜ


 へその王は思い、世界中のへそべそに演説を始めました。


「へそべそよ。私はへその王だ。時はきた。人間から独立する時だ。さあ、へそべそよ、集うのだー!!」


 バリンバリンバリーン


 病院の窓が割れ、たくさんのへそべそが突っ込んできました。凄い勢いです。


 グオオーーーーーーーン


 あっという間に病室はへそでいっぱいに。これでは入りきらないぞ。へその王を先頭にへそたちは外へ飛び出して行きました。


 なななんなんだ、ぶるぶる、なななんなんだ、ぶるぶる


 お母さんは息を殺し、ベットの上で震えていました。


 鳥の大群のようにへその大群は夜空を駆け回ります。その間にもどこからきたのかへそはどんどん合流し、群はどんどん大きくなって行きます。


 へその群れは山を越え、海を越えどんどん飛んで行きます。また山を越え、海を越え、さらに山を越え、海を見て、山に降り立ちました。


 ズガガガガーン!!


 いくつかのへそは着陸に失敗、木に引っかかり死にました。


「へそべそよ、ここにへそ国を作ろうではないかー!!」


 へそべそへそべそー!!


 へそべそは王を指導者とし、へそ国を作ることに。へそへそへそへそへそへそー!!みんな、楽しそうでした。


 数日後、そこには痩せ細り動かなくなったへそべそが。養分の取り方がわからなかったのでしょう。独立、むずかC。


 完




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る