感情を失った桃太郎

 桃から生まれた桃太郎は桃を拾ってくれたおじいさんとおばあさんに育てられ、赤子だったくせに鬼退治に行くほど逞しくなりました。


「おじいさん、おばあさん。僕、行ってくる。町に平和をもたらすよ。」


「おう、頑張ってこい、桃太郎。」


 おじいさんが言いました。


「無理はしないのよ。あ、そうだ。これを持ってお行き。」


 そういうとおばあさんは笑顔できび団子を渡して来ました。ぷくぷく太っていて美味しそうです。


「ありがとう。行ってくるね。」



 雲一つない空。太陽がてんてんに照っている中、桃太郎は出発しました。キャーキャーキャーキャー、子供たちが追いかけっこをしてはしゃいでいます。


 ズンズンズンズン、桃太郎は人里を離れ進んで行きます。やがて、深い森に差し掛かりました。


 空は木々の枝葉に覆われ、その隙間から光が差し込んでいます。地面には影絵のようにはっきりとその輪郭が映し出されています。ふと目を脇にそらすと、キジがいました。そして、話しかけて来ました。


「あなたは誰ですか。」


「僕は桃太郎と言います。」


「そうですか。桃太郎さん、桃太郎さん、お腰につけたきび団子、一つ、私にくださいな。」


「今僕は鬼退治に鬼ヶ島へ向かっているんだ。一緒について来てくれるならあげてもいいよ。」


「わかりました。ついて行きます。きっと、役に立ちますよ。」


「それはどうも。では、はいどうぞ。」


 桃太郎はきびだんごを腰から外し、一つきじにあげました。


 パクリ


 キジは一口で食べてしまいました。桃太郎はキジと共に鬼が島を目指しました。


 トコトコ、チョコチョコ


 気まずい、初対面だし。二人は無言で気まずさを感じながら進んで行きました。すると、


 ガクガクブルブル、ガクガクブルブル


 突然、キジが震え始めました。


 な、なにが起きているのだろう。桃太郎が観察していると


 アガア


 キジは泡を吹き、倒れました。死んでしまったようです。


 これは、どういうことだ。まさか、きびだんごのせい、、、、?いや違う、おばあさんがくれたきび団子のせいのはずがない。桃太郎はそんなことを考えながら進んでいきました。すると、今度は猿が話しかけて来ました。


「あなたは誰だキーッ。」


「僕は桃太郎と言います。」


「そうですか。桃太郎さん、桃太郎さん、お腰につけたきび団子、一つ、私にくださいキーッ。」


「今僕は鬼退治に鬼ヶ島へ向かっているんだ。一緒について来てくれるならあげてもいいよ。」


「わかりましたキーッ。ついて行きますキーッ。きっと、役に立ちますキーッ。」


 桃太郎はきびだんごを腰から外し、一つ猿にあげました。


 サルリ


 サルは一口できび団子を食べると、すぐに血を吐いて死にました。


 カーッカーッカーッ、サルリ


 むむ、これはきびだんごのせいに違いない。おじいさんとおばあさんが、俺に毒団子を持たせて殺そうとしたんだ。桃太郎は確信しました。しかし、なぜ、、、、。桃太郎は引き返しておじいさんとおばあさんに質問することにしました。


「ただいま。」


 桃太郎は家に帰りました。


「おばあちゃん、おじいちゃん。あの、おばあちゃんがくれたきび団子をキジや猿に食べさせたら死んでしまったんだけれど、どうして。」


 桃太郎は泣きながら言いました。


「ああ、実はね。あれは毒団子なんじゃ。桃太郎、私たちはお前を毒殺しようとしたんじゃ。」


 おばあちゃんが言いました。


「どうして、どうしてそんなことをしようと思ったの?」


「桃太郎よ。お前は私たち夫婦の作品なのじゃ。赤子の時から丁寧に作り上げた作品。壊すために。お前は本当に美しく成長した。壊しどきだったのじゃ。人知れぬ地で誰にも知られず死んでいくお前を想像すると私たちは興奮して夜も眠れなかった。しかし、バレてしまってはしょうがない。私たちの手で直接葬らなければいけないじゃじゃじゃ。」


 シャキリ、シャキリ、カチャリ、カチャリ


 そういったおばあさんは両手に鎌を構えていました。いつの間にかおじいさんは日本刀を構えていました。


 ああ、なんてこった、やるしか無いのか。


 桃太郎は涙をぬぐい、背負っていた金属バッドを構えました。


 これは厳しい戦いになるぞ。


 桃太郎は思いました。なぜならおじいちゃんとおばあちゃんは桃太郎に武を教えた師匠でしたから。師、二人と戦わなければいけません。桃太郎の額に汗が滲みました。


 ヘナヘナヘナヘナ、ヘナヘナヘナヘナ


 突然、おばあちゃんとおじいちゃんが倒れ込みました。二人とも床にうつ伏せで倒れています。


 なんだこれは、罠か


 桃太郎は怖くて三日間手出しできませんでした。じっとその様子を観察し続けました。しかし、どうやらほんとうに倒れているよう。なんせ三日三晩なにも食べず、全く動かずいることなんて出来ませんから。桃太郎は二人の脈を確認しました。どちらも、動いていません。顔を確認すると、二人とも幸せそうな顔をしています。恐らく、老衰。桃太郎と戦う瞬間、二人は偶然同時に老衰で命を落としたようでした。


 幸せそうな育ての親の顔を眺める桃太郎、なにを思えばいいか、わかりませんでしたとさ。めでたし、めでたし。


 完


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