蛙と下戸

 ザーザーザーザー


 ゲコゲコゲコゲコ


 雨が降り、蛙は鳴いています。


 ザーザーザーザー


 ゲコゲコゲコゲコ


 そこに酔っ払った人間の群れが通りかかりました。


 どんちゃんちゃんちゃん、どんちゃんちゃん、どんちゃんちゃんちゃん、どんちゃんちゃん


 どんちゃんどんちゃんしています。会社の飲み会でもあったのでしょうか。ネクタイを頭に巻いたりして、楽しそうですね。


 トコトコトコ


 おっと、その群れから一人抜け出してきました。彼はどんちゃんしていない。酔っ払っていません。20歳前半辺りに見え、スーツを着ています。ゆっくりと蛙の群れに近寄って行きます。


「こんにちは、私は下戸ですが。どうかしましたか?」


 下戸なのですね。蛙の鳴き声を聞き自分が呼ばれていると思ったのでしょう。下戸ということで酔っ払ってもいないようです。下戸は飲まなくても許される、きっと素敵な飲み会だったのでしょうね。


 ゲコゲコゲコゲコ、ゲコゲコゲコゲコ


 蛙は変わらず泣き続けます。


「あの、お呼びでしょう?何か用ですか?」


 ゲコゲコゲコゲコ、ゲコゲコゲコゲコ


 蛙は変わらず泣き続けます。


「なんなんですか、全く。みんな揃って私を無視して、うぅ、うぅ、うぅ、うぅ。」


 ゲコゲコゲコゲコ、ゲコゲコゲコゲコ


 蛙は変わらず鳴き続けます。


「なんなんだー!みんな揃って、俺を馬鹿にしているのかーっ!!」


 遂に下戸は膝をつき、泣き始めてしまいました。水たまりの水がはね、スーツにかかりました。ぴちゃ、ぴちゃり。


 どんちゃんどんちゃんどんちゃんちゃんどんちゃんどんちゃんどんちゃんちゃん


 酔っ払いの群れはもう遠くに行ってしまいました。


 ゲコゲコゲコゲコ、ザーザーザーザー


 ゲコゲコゲコゲコ、ザーザーザーザー


 雨は降り続き、蛙は鳴き続けます。いつまでも、いつまでも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る