ぐるぐる
tシャツが汚れている。そういえば2年くらい、着続けていたな。洗濯してあげよう。
ぽいっ
洗濯機にいれた。
ポチっ
グルグル、グルグル、グルグル
シューーン
洗濯が終わった。出してあげよう。私は洗濯機を開け、tシャツを取り出した。tシャツは熟れた果実のよう。シワシワ、シワシワと、洗濯機に張り付いている。バナナの皮を剥くように洗濯機から剥がす。
ヘリヘリ
「綺麗になったな、tシャツよ。」
語りかける、私。すると、
「目が回ってしまったよ。」
と、tシャツが言った。そして、
「目を回してしまったよ。」
と、洗濯機が言った。ああ、そうか、洗濯機は、目を回し機でもあるんだな。私は思った。では、自分のことを洗濯機だと思っているのか、目を回し機だと思っているか、どっちなのだろう。tシャツを物干し竿にかけながら、洗濯機に聞いてみる。
「君は自分のことを、洗濯機だと思っているのかい、それとも、目を回し機だと思っているのかい?」
「ん、もちろん洗濯機だと思っているさ。でも洗濯している時は、洗濯物の目を回すことを意識するんだ。洗濯しようと思うと力が入りすぎてしまうからね。目を回すことを意識すると、結果的に洗濯がうまくいくんだ。」
洗濯機は得意げに答えた。へえ、なんか色々、あるんだなあ。私は感心した。
まだtシャツは乾かない。今度はtシャツに話しかけてみる。
「やあ、tシャツ君。君はさっき、目が回ってしまったよ。と言っていたね。でも、もしかしたら、目が回っていないかもしれないよね。」
「そうだね。」
tシャツはそっけなく、答えた。
(しまった、無意味な会話をしてしまったかもしれないぞ。)
と、思ったので、
「今の会話に意味があったかな。」
と質問した。
「無かったね。」
tシャツはさっぱり、答えた。でも、僕にとっては、あったような気がするんだよなあ。
「でも、僕にとっては意味があったんだ。」
「そうかい。」
tシャツは、欠伸をしながら答えた。また、無意味な会話をしてしまったのかな。
「そろそろ乾いたかい?」
「乾いたよ。」
tシャツは乾いたようだ。僕にとっては意味があったが、tシャツにとっては意味がない会話をしているうちに、tシャツが乾いたようだ。tシャツが乾いたので、tシャツを着る。私もtシャツの目を回したいな。私は目を回し機になれるだろうか。やってみなきゃわからない。
私はtシャツの目を回すために、回転した。バレリーナのように回転したかったが、そう上手くはいかない。両足をバタバタ動かしながら回ったのだ。
バタバタバタ
バタンッ
目を回してしまい、倒れた。tシャツに聞いてみる。
「目は回ったかい?」
「全然」
tシャツの目を回すことはできなかったようだ。でも、僕は目を回してしまったよ。僕は目を回したから、僕にとって僕は目を回し機なんだ。だから、目を回し機にはなれたんだ。僕はtシャツに話した。
「僕は目を回したんだ。僕は目を回したから、僕にとって僕は目を回し機なんだ。」
「へえ」
tシャツは金魚のふんと会話をしているようだった。
ピンポーン
お、誰か来たぞ。
ガチャガチャ
「やあ、トルネード君じゃないか。」
トルネード君が立っていた。
ぐるぐるぐる
僕達(洗濯機、私、tシャツ)は、トルネード君にトルネードされた。
ぐるぐるぐるぐる、目が回る
回りながら、高く、高く。
ふと、洗濯機君が目に入る。くるくるくるくる、回っている。あれじゃ洗濯機君も目が回っているかもしれない。聞いてみよう。
「やあ、洗濯機君、目が回っているかい?」
「ああ、目が回っているよ。」
へえ、目を回し機も、より大きな目を回し機には、目を回されてしまうのだな。まあ、私にとっての目を回し機である私が目を回している時点で自明のことではあるのだが。
そんなことを考えながら、僕は天へと登っていくのでした。
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます