富、名声、力

「サンタさんへ、富、名声、力を下さい。」


 こうたの手紙にはそう書いてあった。5歳児に富、名声、力を与えたらどうなるか。すぐにわかる。傲慢になる。すぐさま世界を支配し、この世は闇に包まれる。闇に包まれた中、人々は光を求めもがき続ける。そして生まれるレジスタンス達。闇の力に苦しみ、たくさんの犠牲を生みながらレジスタンス達は戦い続ける。そして、遂に闇の力に打ち勝ち、光を手にするのだ!!


 よくないな。でも、こうたにはなんて言おう。うーん、うーん、困ったな。どうしよう。クリスマスは明日だ。子供の夢を壊すわけにもいかないし。うーん、うーん。


 そうこう悩んでいるうちにクリスマス当日。私はパニックになった。


 ああ!!ああ!!どうすればいいのだ!!私はパニックになり、玄関のドアに椅子を投げ続けた。「椅子がかわいそうだ!!」と、叫びながら!!椅子がかわいそうだ、椅子がかわいそうだ!!ドアと椅子がぶつかる音


 ギィッ


 椅子の悲鳴のよう。椅子が、苦しんでいる。本当に可哀想だ。だがなぜ私は、ドアがかわいそうだ!!と、思わないのだろう。なぜ、なぜ、ほわい。わからない。私はずっと、ドアに椅子をぶつけ続けた。知るため、なぜ私がドアをかわいそうと思わないか知るため。投げ続けた。陽が暮れ、夜になった。深夜になった。丑三つ時、お岩さんがお祝いしている。おめでとう、おめでとう。それでも、投げ続けたのだ。


 ギギィッ、ギギィッ、ギギィッ、ギギィッ


 ポキッ


 椅子の足が折れた。


 カチャッ


 鍵が開く。頭の鍵だ。謎が解けた。なぜドアがかわいそうだと思わなかったのか。それは椅子の方が華奢だから。今にも壊れそうだから。ドアよりも壊れそうだから。繊細な形を成しているから。皮肉にも私は、椅子を壊してやっとこの事実に気づいたのだ。椅子、ごめんなさい。


 スッキリした。もう陽が昇っている。こうたにプレゼントを用意しなければいけない。あと数時間でこうたは起きてくる。富、名声、力、どうしよう、どうしよう。私はこうたの書いた手紙から「富、名声、力」と書かれたところを破り取り、枕元に置いた。これがプレゼントだ、こうたよ。


 朝になる。こうたが起きて来た。「富、名声、力」と書かれた紙切れを持っている。


「お父さん、サンタさんからプレゼントが来てたよ。嬉しい、嬉しい。」


 笑顔、でも少し、引きつっている。


「よかったね、サンタさんに感謝しなきゃ。」


「うん、うん、感謝しなきゃ、しゃんたしゃんに、、、」


 目が潤んでいく、


「そうだよね、、僕、5歳の僕が手にしちゃったら、きっと世界を支配し、闇で包んでしまう。僕にはまだ早かったんだ、、。世界を平和にしたかったのだけれども、、、。」


 葛藤。こうたは葛藤していた。5歳児なりに。こうたの目から涙が落ちる。


 ポルポト、ポルポト


 蟻の上に落ちる。蟻は窒息死した。私はこうたを抱きしめる。


「そうだなこうた。10歳になったらまた頼んでみるといい。サンタさんも今度こそきっと、、、。」


 私も涙した。その日は二人で一日中泣いていた。


 五年後、こうたは再び富、名声、力をサンタに頼んだ。私は約束どおり、富、名声、力を与えた。残念なことに、こうたは傲慢になった。食後皿を下げなくなったのだ。次の日には海賊王になり、この世の全てを手に入れた。闇の力で世界を覆ったが、レジスタンスの抵抗にあった。弾圧しまくっていたが、最終的に負けて処刑された。5歳の時にあげていた方がよかったのかも。


 完

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