うちわの出来方

 真夏のお昼時、太陽が痛い。私は交差点で信号待ちをしていた。隣には、中年の男が汗をにじませ、うちわで顔を扇いでいる。


 パタパタ、パタパタ


 私は、羨ましい、私もうちわを持って来ればよかった、と思った。すると、


 ごろん


 彼の頭が地面に落ちた。恐らく強く扇ぎすぎたせいだろう。

 私は、わあ、新手の自殺かな、と思い、


「新手の自殺ですか?」


 と、問うた。

 頭は言った。


「違う。私は死ぬのではない、生まれ変わるのだ。」


 どういうことだろう。じっと頭を眺めていた。すると、頭はどんどん薄くなっていきやがて、うちわになっていった。残った体は土偶になった。


 なるほど、うちわはこのように作られていたのか。私は知らなかったことを知れて、嬉しくなった。これもまた、学問なのだ。


 それ以来、私はうちわを見るたびに、消えていった命を想うようになった。


 完




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