産卵ラップ

 親子二人で夕食、お父さんはお仕事で遅くなりそう。

 娘、聡子、お腹いっぱいでご飯を残す。

「お母さん、このご飯後から食べるね。」

 母、時子

「わかったわ。じゃあラップかけといて。」

 聡子はラップをかけておいた。

 次の日、昨日残したご飯を見ると、たくさんのイクラが入っている。聡子はイクラアレルギーなので、食べることができない。これはどういうことだろう。ふと、昨日かけておいたサランラップの注意書きを見る。すると、

「このラップは、時々産卵します。」

 と書いてある。なるほど、これは産卵ラップだったのか。


 これを知った母、時子、大激怒。間違って食べていたら、聡子は死んでしまったかもしれない。製造元に苦情の電話を入れる。

「もしもし、もう少しで、御社のラップが産卵したイクラによって、娘が死んでしまうところでした。」

「あなた、ラップが産卵する、無生物が生物を生むということが、どれほどすごいかわかりますか。あなたの娘の命よりも、よっぽど尊いことだ。」

「たし蟹。」

 時子、納得。ガチャ。電話を切る。


 それを聞いた聡子、ショックを受けて泣く。

 お母さんは私のことなんて、どうでもいいんだ、ウェーン、ウェーン。

 それを見た時子、聡子を優しく抱きしめる。

「聡子、あなたは私にとってとても大切で尊い存在よ。でもね、無生物が生物を生むという事実のほうが尊いの。」

「たし蟹。」

 聡子、納得。


 しかし、ここで考える。ラップが産卵するという事実、確かに尊く素晴らしいことだ。しかし、今回イクラは冷蔵庫の中で白米の上に排卵されたのだ。これでは、乾いてしまい、せっかくの卵も報われない。卵がかわいそうだ。時子、苦情の電話を入れる。

「ご飯の上に産卵しても、乾いて死んでしまうだけだ。卵がかわいそうだ。」

「たし蟹。」

 業者、納得。業者は卵を生かすために、産卵ラップを養殖業者へ売り渡した。特許をとり、大きな利益を生んだ。

 無生物が生物を生むという前代未聞の発明は、世界中で話題になり、その語呂の良さからノーベル文学賞をとった。


 完

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