#05 動物園、水族館、遊園地

(う~む。JKはオカピの縫いぐるみを選ぶと)


 俺は今、動物園のお土産コーナにいた。そう、何とあのJKは一人で動物園に入ったのだ。

 数日、彼女をストーキングして分かったのは、彼女の"ボッチスキル"の高さだ。

 彼女は友達がいないという訳ではなさそだが、こうして休日一人で動物園に行くとは、レベルが高い。俺だって、ストーギングじゃなかったら絶対に一人でこんなとこ動物園に来ない。


(これか……)


 JKがレジに向かったので俺も同じ縫いぐるみを手に取ってみた。手頃なサイズで値段も1980円。リュックにも入るので、自分もお土産にでも買って帰ろう。



 ◆ ◇ ◆ ◇



「ユウさん、ユウさん。コータローさんも一緒の馬を購入しております」

「そうだな、だがあの馬実戦には使えないぞ。弱々しい」

「いや、違うでしょ。おもちゃって書いてあるし、『おかぴ』っていうらしいし」


 マオとユウに突っ込みを入れる、ケフィー。彼女たち3人は、コータローのことが気になってコッソリと尾行していたのだ。

 言うなれば、ストーカーJKストーカー幸太郎のストーカーである。


「あっ、ユウさんユウさん。これ」

「おぉ、『ねこみみ』じゃないか。

「そうですよねぇ、えへへ」


 ネコミミを付けたマオの頭を撫でるユウ。それを見たケフィーは、


「ちょっと、それ商品なんだから勝手に付けたりするんじゃっ」

「「あっ」」


 ケフィーが2人を押したせいで、ユウとマオがバランスを崩して、商品の棚を倒してしまう。

 音が鳴ったら人は気になるもの。

 目線が集まる前に、ユウはケフィーの胸を掴み魔力を吸い取ると『透明化魔法』を作動させた。



 ◆ ◇ ◆ ◇



(ん? 一瞬、あいつらが居たような気のせいかな)


 振り向いた先には誰もいなくて、ただ縫いぐるみの山が下に落ちてしまっていた。

 気になっている人は多いようで、スマホで動画を撮っている人もいる。


「お会計1980円になります」

「あっすんません。1万で」


 何やら、スマホで撮っていた人たちは、『これ心霊動画じゃね』『マジやばくね』『俺、twitterにあげるけどいいよな』などと話しをしている。

 俺は取り合えず、JKを見失う前に、あいつらがいるであろう場所に向かい睨みを利かせた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 JKが次に向かったのは、水族館だった。動物園の時点で怪しかった財布事情、水族館に行く前にJKがちょうどコンビニに行ったので助かった。

 ATMで5万円下したんで、どこでもかかってこいという状態である。


「……お客様、お客様」

「はい?」

「その、動きが不審だと苦情が来ております。改善されないのでしたらご同行を」

「あっ、そのごめんなさい」


 いっけね。水槽越しにJKを監視していたら、危うく捕まるところだったぜ。

 周囲の目線を避けるために、twitterを眺める。

 適当にRTリツイートやいいねをしながら、TLをスクロールしていく。

 すると、


(えっ、これさっきのじゃん)


 友達フォロワー友達フォロワーか、さっき動画を撮っていた人は意外とネット上の知り合いだったかもしれない。

 そのツイートは、『幽霊はっけーん』という文字に動画が添付されていた。解像度は悪いけど、ユウたちを知っている俺からしたら、あいつらがしっかりと俺のことを監視していたことが分かった。

 同時に俺が振り向いた瞬間に"消えている"から、『魔法』でも使ったんだろう。


(んでもこれ、伸びてるな)


 最近のアップデートで、RTやいいねの数がリアルタイムに更新されていくようになり、その数字がグングン増えているのが一目瞭然だ。

 折角俺も映ってる動画なんだから、俺も有名人にでもなってみたかったな、と思わないこともないんだけど。考えても仕方ない。


(やべぇ、JK見失わないようにしないと……)



 ◆ ◆ ◆ ◆



(JKの活動量がやばい、疲れた……)


 動物園と水族館、この時点で少し怪しかった。だって、一日にこの2つを回る人なんて聞いたことないし。

 んまぁ、許そう。2つ回ったくらい。

 でもなぁ、3つ目はないよ。そりゃ、動物園、水族館ときたら、後は遊園地だけどって、


「うわぁぁぁぁ」


 ――俺は今、ジェットなコースターに乗っていた。



 買った水をベンチで飲み一休みする。もう夕方だ。

 JKは少し離れたところで着ぐるみのキャラクターと写真撮影をしている。


(週末、毎回こんなことしているんなら、マジですげぇな)


 見た目清楚な感じなのに、その行動力と体力は俺を遥かに凌駕している。

 毎週ネズミーランドに通う人をテレビで見たことあるけど、1日で動物園、水族館、遊園地の3つを回る人なんて聞いたことがない。

 もし、毎週じゃなくて、今日偶然この3つに行っているなら、俺の運の悪さを呪うことにしよう。帰ったら、ユウに運勢アップの『魔法』とかないか聞いてみるのも手だな。

 そう思った時、俺の真後ろから声を掛けられた。


「運勢アップの魔法ならあるぞ」

「はっ、お前どこから出てきた。帰れって言ったよな、ユウ」

「マオにどうしてもって言われたから仕方ない」

「相変わらずだな……ってことはケフィーもいるんだろ」


 申し訳なさそうな顔でケフィーもその空間から出てきた。

 ユウが魔法を使うには、『魔力タンク』のケフィーが不可欠だ。


「あっ、その。これ」


 ケフィーは麦茶のペットボトルを渡してくれた。しかし、俺が水を持っているのに気づいて、さらに申し訳なさそうな顔になる。

 それを見て俺も申し訳なくなってくる。


「まぁ、気にするな。折角俺が魔法を掛けてやろうとしてんのに」


 一発、ユウをぶん殴ろうかと思ったが、何とか堪える。

 ケフィーから麦茶をぶんどり、


「んで、運勢アップの魔法ってどんなんだ」

「そのままの意味だ。不幸がちょい不幸になる感じ」

「ちょいにしかならんのか。で、そのちょいを具体的に」

「クワガタだと思って拾ったのがゴキブリという不幸を無くしたり、本来刺される所をボディータッチで済むようにしたりって感じ」

「どうぞよろしくお願いいたします」


 JKに殺される危険なんてないし、そもそも気づかれてない様子だけど、念には念をっていうよね。



 ◆ ◆ ◆ ◆


 

 いくつかの乗り物に乗って、日が赤くなっている。

 オレンジ色の光が辺りを包む中、JKはまた一つ長い列に並んだので、少し待ってから並ぶ。

 乗り物の降りる所をいちいち探すのも面倒だし、俺も流石に追いかけるだけなのもあれなので、乗ることにしていたのだ。


(おっ、通知が……)


 通知を見ると、山野からの連絡だった。

 前が進む気配を感じ、前に進みながら、返事を打つ。

 『twitterで回っていた"心霊動画"に写っているのってお前だよな』、という内容。

 ユウたちのことを説明していないので、ただの『魔法』だとも言えず……素直に『あぁそうだ』と返事をしておいた。


 ふと、前を向くと順番はすぐそこまで来ていた。JKの姿が見えない。

 もう乗ったのかな、と何んとなしに思っていると、ついに自分の番になった。

 乗り物は、観覧車。別に興味ないし、一人で乗ってもあれだし……


「お客様、次で」

「あっいや、やっぱ降りまっ」


 そう言って、乗るのをやめようとした瞬間、背中を押された。


「えいっ」


 ――えっ。


「観覧車の中では立たず、揺らさずでお願いしますね」


 ――ちょまっ。職員さんっ!


「はい」


 ――じぇぇぇけぇぇぇっ!!


 俺の驚きを放っておいて、それでも観覧車は回り続ける。

 俺は崩れた姿勢のまま、観覧車の扉が閉じられるのを見た。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 ――2人きりの夕日が見える観覧車。


 言葉にするとロマンティック。でも実際は……


「なぁ、いつから俺のストーキングに気が付いて」

「火曜日からです」

「最初からじゃねぇか」


 4人席、向かい合わせではなく、隣に座る。

 肩が触れる。あの時ホテルで感じた熱はそこにはない。


「どうして気づいた」

「どうしても何も、幸太郎さんのことはいつも見てますからね」


 ――それに、ちゃんと向き合う。そうメッセージを送ってくれたじゃないですか。


 そんなんでストーキングされるとは思わないだろ、と俺は言いたくなったけど、無駄だと判断した。


「でも、何で気づいていたのに言わなかったんだ」

「ふふ、こうして疑似デートを楽しむ為ですよ」


 JKは笑顔で言った。言っていることを理解しようと噛み砕いていると、JKは彼女のスマホを見せてきた。

 写真、着ぐるみとJKがポーズを取って写っている。何か意味があるのかと思っていると、JKは写真をズームして見せた。


「ほら、ここに幸太郎さんが」

「あっ本当だ。…………すげぇな」


 思わず出た言葉を手で塞ぐ。JKは満足気な顔をした。

 こいつは本当に俺のことが好きなんだな、と感じる。

 少し嬉しいような怖いような、不思議な感覚だ。

 でも、


「どうして俺なんだ。その、お前は俺のことを、だな……すっす」

「好きですよ」

「…………」

「大好きですよ」

「……………………」


 小っ恥ずかしくなる。だからどうして、と何とか声に出す。


「それはどうして好きか、ということですか。それとも、どうして好きになったか、ですか」

「両方だ」

「それはずるいです……というか、幸太郎さんは卑怯です」


 ――何が卑怯なんだ。ストーキングのことか? でもそれなら、お前だって。

 俺は思ったままを口にすると、JKは、


「その呼び方です。お前って。ちゃんと向き合ってくれるんじゃなかったんですか」


 JKはプンプンした表情で俺の太ももに手を乗せた。


 ――ボディータッチ。


 待って、ユウの魔法なかったら、俺、刺されてたかも……ってことだよね。

 いやいや、そんなのあり得ないって……。


「幸太郎さん」

「はっひゃい」


 怖い、マジで、ヤバイ。

 俺の早回しになる脈拍なんてお構いなしに、観覧車はゆっくりと動きまだ半分にも到達していない。

 JKの機嫌を損ねないように、言うことを聞かないと。

 "刺される"ならボディータッチになるらしいけど、首絞められるとか、スタンガンとか、観覧車から落とされるとかだったらどうなるか分かんない。


「よっ、呼び方とは」

「そのままの意味ですよ。私は幸太郎さんとお呼びしているのに、お前呼ばわりは少しどうかと」

「あっそっそうだな。名前なまえ……」


 俺はあの時、JKが見せてくれた学生証を必死に思い出す。

 何だっけ、あれだ、あの、なな……


「なるみ、ちゃん」


 JKは両手を口元に持って行ったけど、顔の表情は丸わかりで。


「成美ちゃん」

「はいっ」


 ここまで驚いて貰えるなんて。彼女は少し涙を流しているし。

 やった、よし。そう思っていると――太ももに添えられた手が怪しい動きを始めた。


「な、何をしているのかな」 

「合意ってことですよね、さぁ、ホテルでの続きを……」


 JK――成美は、俺のベルトに手をかけた。これはやばい、マジでヤバイ。

 片手はベルトじゃなくて、もうズボンの上からモミ始めてるしっ。


「ぬぁぁっ」


 変な掛け声と共に俺は立ち上がった――スボンとパンツを捨てて。


「はぁっ」

「えっ……」


 成美は、俺のズボンとパンツを観覧車の床に押さえつけながら固まった。

 俺も自分の分身を見て、固まった。


「「大きくない……」」


 そこには、どんな状況でも女の子に触られたら欲情する愚息が、あたかも欲をすべて吐き出した時のように、小さく下を向いていた。


 成美は何度かそこを刺激した後、ゆっくりと俺にパンツとズボンを履かせた。


「もしかして……ED?」


 彼女がそう呟いたのを最後に、俺たちは観覧車を降りた。


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