#04 嵐の前の静かな感じ
――人は良いところよりも悪いところを見つけやすい生き物である。だから、人の良いとこ探しをしよう。
小学5年の時に担任の先生(当時59)に言われた言葉を今でも覚えている。理由を聞くほど賢くもなかったので、当時はただ「そうなんだな」と思っていた。
自分なりに出した理由としては、人間にはそれぞれ『理想とする人間』がいてその人間と比較することで、いいとこ、悪いとこを見つける。
世の中、理想に近い人間はいても、理想的な人間は多分いない。理想からかけ離れていても悪い人間とは限らないけど、実際、悪い点は多く見つかる。完璧な人間ほど珍しいのだ。
「むむぅぅ」
「どうしたんだ。悩みがあるなら……『であいけい』の女のことか?」
自宅のワンルームにある机に突っ伏していたら、隣でテレビを見ていたユウが話しかけてきた。仕事終わりのままなのか、所々土などで汚れている。
俺が体を持ち上げるのに合わせて、ユウはテレビを消した。部屋には女子組のシャワーの音とキャキャ声が、
「あぁ、おかげ様でな。こっちはどうすればいいのか悩みっぱなしだ」
「どうすればいいのかって……お前ちゃんと向き合うことに決めたとか、最近言ってなかったか」
「……言った」
「それで、今日もJKを『すとーきんぐ』するぞー、と出かけていったよな」
「……言ったな」
そう、ストーカーJKにちゃんと向き合うと決めた俺は、相手が自分のことを知っているくらい相手を知ることから始めるという山野のアドバイスを参考にして、結果、JKをストーキングすることにした。
お前が同じことしてどうするって言われたけど、だってそれしか方法が思いつかなかったんだもん。ストーキングを通じて彼女がどんな気持ちで居たかもわかる気がしたし、何より、
――JKを拒絶するネタ探しにもなるかと思ったからだ。
「んで、意外といい女だったとか自慢気に……」
「あぁもう、言いました、言った、言ったってばよ」
向き合うと言っても、刻まれた彼女への恐怖を払拭することはできない。だから、心の奥底で悪いところを探していた、望んでいた。
でも彼女は、――いい人過ぎた。
お年寄りが大きな荷物を抱えていたら持ってあげてたし、女の子が怪我していたら絆創膏を取り出してつけてあげてたし、殺虫剤をアリに向けていた男どもに在来種のアリを守ろうと注意していたし、
「ユウ。お前、JKに会ったのか」
「あぁ。警察に呼び止められた時にな。んで、いい奴だなーと思って、コータローは何で付き合わないのかと」
「だったら先に言えって」
あの時、何となく見覚えあるなとは思ったんだがユウ本人だったとは。
マオ以外にほとんど興味なしのユウがJKの話を振ってきたのは、それが理由か。
「まぁ、良い奴ってのは雰囲気っていうか比較的なだけで、マオと比べるまでもないレベルだからなー。なに、マオはいい女で可愛い女でな、もう柔らかいし素直だし俺のこと好きだからなーっ」
そう首を動かしたユウは、シャワールームへの道を見て立ち上がった。
「おっマオぉぉぉ」
「ゆっユウさん、風呂あがりですのでっ」
「おぉ、風呂あがりは暖かいし可愛いなぁ」
「えへへ」
「……あっ、すまん俺泥だらけだった」
「うふふ、構いませんよ。せっかくですのでユウさんも一緒にどうです?」
「あっいや、お前また……ケツ狙おうとしてないよな」
「えへへっ」
「えへへっじゃないっ」
風呂から上がってきたマオにユウは抱きついて、イチャコラしている。きっと毎晩ズッコンバッコンしまくっているんだろうなーって思ったけど、一緒に暮らしていて一度もなかったな、そういうの。
「コータロー帰ってたの」
「まぁな」
「ふーんっ」
タオルで髪を拭いながらケフィーが言った。眼鏡をかけながら、黒い短髪を濡らしたチャーが、
「でっででっ、コータロー。件のJKはどうだったんっすか。今日も昨日もその前もっすけど、いい加減変化とかあったんすかねぇ」
「特にないな。明日は土曜だし、少し違った姿が見えるかもなんだけどな」
ストーキングを始めたのが火曜日で、今日は金曜日。
明日明後日は、学校が休み。平日とは違う彼女が見られるだろう。
というよりも、休日こそ人柄ってやつが出るもんだ。今までのは練習みたいなもんで、明日明後日が大本命。
「そっすね。明日から気合入れてガンバっす」
「おう、あのJKの素顔を暴いたるぜ」
悪いとこ探しが得意な人間が悪いところを見つけられないなら、彼女は本当にいい人か、それとも……
「(う〜ん、相手はストーカーの上級者なのに初心者のコータローに気づかないのかな)」
ケフィーが何やら呟いていたので首を向けると、手を口元に持って行き少し前かがみになっていて、巨乳の谷間がっ。
ケフィーの癖に、生意気な乳しやがって。相変わらず巨乳モードの破壊力に慣れないのなんの。
ガン見する度胸もなく、見た後悶々とすることも。このワンルームでの生活もそこそこの日数が経つが、いい加減自分の部屋がほしい。
「…………っすね……」
「おい、そのニヤニヤした目をやめろ、チャー」
「どうしたの」
「ほほっす。コータローはケフィーのおっぱいに夢中なようっすよ」
「なっ、なわけねぇだろ」
「そんな目で、この変態ぃぃっあっなっチャーっ」
「うっひょー、やわらかいっす。マジ何度触っても指が吸い込まれていくっすよ」
…………部屋にバカップルが
とっとと一人で風呂に入りたいが、ここに俺含めて5人ってことは、まだオナミが風呂に入ってるんだよな。
俺はテレビをつけ、雑念を払うように金曜ロードショーを見始めた。
そして、数日後。
俺は緑野女学園の制服に身を包み、女子校へと潜入したのであったが、これはもう少し先の話。その前に明日、一つ大きな出来事が起こるのだった。
今日がとても静かなのは、嵐の前の静かな感じだったんだな、そう思える
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます