#03 初めては好きな人と決めていたんで
「よう、おはよう」
「……おはよー」
「何だ、元気ねぇな」
正門の前で山野と遭遇。俺は
「どうだったかー、って聞くまでもなさそうな感じか」
「お察しの通りで、へいへい」
自転車をいつもの定位置に置く山野に両手でへいへいと、やれやれポーズで、
「いや、取り合えず元気ねぇからDTのままなんだなっていうのを察しただけなんだが」
「それが全て……いや、どうなんだろ」
結局のところ、俺が童貞であるかそうでないのかは分からないままだ。ケフィーたちが部屋に突撃するまでかかった時間はあまりなさそうだが、どうなんだろう。
初めては好きな人と決めていたんで、失っていたらと思うとモヤモヤが止まらない。
処女が自分の初めてを大事にするように、童貞も初めてを神聖視するので……う~ん、ソースが俺の妄想だけだから心もとないな。女の子がどう思っているかは分かんないのは仕方ないとして、まぁ、男について同じく童貞に聞いてみるか。
「なぁ、山野」
「ん、どうした」
「……童貞と処女なら、どっちがいい」
「ブッ((」
「おい、きったねぇな」
スポーティーな自転車によくついてるボトルを片手に山野は、口に含んだ液体を噴出した。多分中身は水だろう、ベタベタしないでマジ良かった。
「もー、何で噴き出すんだよ。早漏か、おい」
「イックーじゃねぇんだから、そりゃねぇよ。つうか、……すまん」
「まぁ、そんな濡れてねぇから構わん。けどどうした、いきなり噴き出して」
「…………っお前が……」
「お前が?」
「……っお前が変なこと言いだすからだろ」
山野の顔は赤く、それを隠すようにそっぽを向いてしまった。変なこととは何だろうか。
分からん。さっぱり分かんねぇ。
「…………(これって俺が神馬の
「山野……?」
「あっいや、その」
「もう、何だよ。何言ってんのか全然聞き取れねぇぞ」
――ブブブッ
スマホに着信のバイブ。通知バーの吹き出しマークを押すと青地に白いハトが表示される。そう、twitter。
____________________________________
〇 Empress@empress ・現在
返信先: @g_horseさん
真面目に
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〇Empress @empress ・現在
返信先: @empressさん
頑張れだし
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_____________________________________
〇Empress @empress ・現在
返信先: @empressさん
全部自分のせいだろ
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「……(どうする。やれるなら男でも女でも。たちねこ俺はどっちでも構わな――いや、どちらかと言えば抱きた」
「あっそうか!」
「っなっ、なんすか?」
Empress、エンプレ姉さんと呼ばれる姉御肌のその人は、気になったこととか思ったことをズカズカ言うことで人気である。
俺とは相互フォローの関係で、今回は俺の『小テストやばかった。あの先生はうんぴ』に対する
にやにや見ていると、落ち着きを取り戻した山野がジッとこちらを見て、
「女帝か?」
「あぁ、今回は3点バーストだぞ」
「おっ、マジじゃん。絶倫かよ、3連発とか」
「ちっげーし、エンプレ姉さんはプライド高くて自分の意志をきちんと持って、それでいて何やかんや甘いとこもあるいいお姉さんなんだよ」
「でも会ったことねぇだろ」
「それもそうなんだけど」
しかし、何度か交流をしたり、他の人と交流しているところ見たりして『Empress』という
だから、思った。
「んで、さっきの『そうか!』について」
「JKのことを相談しようと思ってな、エンプレ姉さんに」
山野は変な顔をした。何言ってんのこいつみたいな――当たり前か、俺はJKのことを山野に話していなかったな。エンプレ姉さんは今度でいいや。
「あのな、」
「俺じゃなくて、女帝に相談するのか。……
「すまん、悪かったって。話す話すから」
「フンだ」
「すまんって」
「…………ブッ。冗談だって」
「はっ、分かってたよ。もう、何年の付き合いだよ……」
俺は山野に昨日の出来事を説明した。『勇者』たちについては、適当に誤魔化す。とある事情から山野には内緒にしているので。
「……大丈夫なのか、それ」
「まぁ、何とか。ケガもないし」
「んで、そのストーカーJKのことを女帝に相談しようってことか」
「うん。だけど、山野がどう思うか聞きたい」
山野は少し考える様子を見せて、
「なぁ、ストーカーだったらダメなのか」
「はぁっ、ダメに決まっているだろ。逆にいい理由が聞きたいわ」
「よく考えてみろよ。……神馬は、そのJKのことが好きだったからラブホに行ったんだろ」
「そうだけど、ストーカーだぜ」
「いやいや、ストーカーになるって、神馬のことが好きで好きで堪んねぇってことだろ」
理由は検討もつかないけど、ストーカーになる程だからな。俺のことを好いていてくれているのだろう。嬉しいけど、なんか違う。いや、違くないのか、う~む。
「好きってのは相手のことを知ることから始めるもんだろ」
「そうだな」
「そうだろ」
一応言っておくが、俺も山野も童貞である。彼女できない、恋愛もろくにしたことない。だから、好きについてあぁだこうだ言うのは……ねっ。
「だから、お前もJKのことを知っていけば好きになれるんじゃないか、と思ってな。顔も性格も好みなんだろ」
「うん」
「恋愛は相手が自分のことを知っているくらい、自分は相手のことを知るこっから始める。じゃぁ、答えは一つだろ」
――ブブブッ
またもや着信のバイブ。さっきとは違う文字付の吹き出しマーク。
「神馬、お前もJKをストーキングするんだ! …………神馬?」
いつもの癖で通知バーに表示される本文を読まずにアプリを起動してしまった。レストランでフリフリ友達登録していたんだった。
で、既読をつけてしまったのだ。おっそろしい
〇紫雲 成美___________________________
幸太郎さん、あなたのことが好きです。
この気持ちは譲れません。
ですが、私はあなたに嫌われたくない。
私の愛をあなたに伝えたとき、あなたは嫌悪感を見せた。
自重しなければいけませんね。
昨夜をきっかけに恋人になれると思っていたのですが……
_____________________________________8:24
〇紫雲 成美___________________________
恋人といっても、既成事実を作ってしまいたかった。
安心したかったのです。
もし、ホテルに行けないことも考えて、睡眠薬と精力剤を仕込みました。
必要は無かったのに。
今となっては余計なことをしたと後悔しております。
_____________________________________8:25
画像データが送信された。モザイクに隠れて全くわからない。いや、分かるけど、分かりたくない。本当は分かっていないんじゃないかもしれない。実際、モザイクは多い。モザイクというか、ピントが合っていない。
戻るボタンを押して画像を閉じると、新たなメッセージで画面がスクロールされる。
〇紫雲 成美___________________________
かといって、あなたとこれで「おしまい」は嫌なのです。
脅しではないです。脅迫ではないのです。
ただ、一つお知らせします。
_____________________________________8:27
――せいしは私の元に。
ゴムに包まれたそれは、俺の
文面からして、俺が童貞のままってのは分かったけど、落ち着かない。動画のチン◯ン萎みの謎は解明したのに。
ちょっとしたホラーだよ。いや、ガチのホラーじゃん。
プルプルと俺の手で揺れるスマホを山野は見て、
「これがJKか」
「あぁ。やばくね」
「何となく睡眠薬の理由は嘘っぽいけどな。だけどよ、やばいも何も、お前はJKとヤることしそうになったんだろ。責任、考えてたのか」
「うん、それは勿論。てか、付き合うつもりだったし」
本気で思っていた。彼女のことを本気で好きになっていたから。
「考えてみろ。脅しとか以前の問題だ。ちゃんとJKに向き合わなかったら、お前。ガチのクズだぞ」
山野の言ったことは正論だ。JKが脅しではないと言った通り、どっちみち俺とJKは身体を繋げていたかもしれないんだ。結局、責任は取らなければいけない。
だったら答えは一つ。
「ちゃんと向き合うべきか。彼女のことを知る為に」
好きになるか、ならないか。結論は急がなくていい。
誠実に行こう。山野にいう通り、相手と同じくらいに自分も『知る』ことから始めよう。その手段は、『ストーキンング』になるのかもしれないけれど。
とりあえず、既読スルーはいけない。俺は、今思ったことを文章にして送り、デフォルメされたキャラクターのスタンプを送信した。
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