第5章 いだいなる魔法使い 海の結婚式

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『いだいなるまほうつかいシリーズ③ いだいなるまほうつかい うみのけっこんしき』


 いだいなるまほうつかいは およめさんを もらいました


 およめさんの ひとみは いだいなるまほうつかいからの プレゼント


 いつも キラキラと かがやいて います


「あなたの めで みると せかいって とても きれいね」

 およめさんは いいました


「きみが うれしいと ぼくも うれしいよ おなじ けしきを みているからかな」

 いだいなるまほうつかいは いいました


 そよそよと かぜに のって うみの かおりが とどきました

「うみが みたいわ」

 およめさんは いいました


「いいよ ほんものの うみと にせものの うみと かりものの うみ どれがいいかな」

 うみの かおりを そぅっと つかまえて いだいなるまほうつかいは いいました


「それなら ほんものの うみが いいわ ここから とおいのかしら」

 およめさんは いいました


「とおくても だいじょうぶ ぼくが つれていくよ」

 いだいなるまほうつかいは くうきを たくさんたくさん あつめて とうめいな ふねを つくりました


 およめさんの てを やさしく ひいて ふねの うえに のせました


「ぼくが かぜに なって はこぶからね みを のりだして おちないように きをつけて」


 ひゅうう ひゅうううん 

 ぴゅうう ぴゅうううん


 そうげんを こえて 

 やまを こえて


 いだいなるまほうつかいは

 きぎに 

 くさばなに 

 くもに 

 あいさつをしながら およめさんを はこびました


 ざざ ざざーん ざざ ざざーん


 なみの おとが きこえてきました

 うみに ついたのです


 およめさんを のせた くうきの ふねは ゆっくりと すなはまに おりました


 いだいなるまほうつかいは また にんげんの かたちになって およめさんの てを やさしく ひきました


「うみだよ きみと みる はじめての うみだ」

 いだいなるまほうつかいは いいました


「うみね あなたと みる はじめての うみだわ』

 およめさんは いいました


「ここで けっこんしきを あげようか」

 いだいなるまほうつかいは しゃがんで すなはまを さらさらと なでました


 すると どうでしょう


 またたくまに りっぱな おしろが できました


「すてきなドレスが なくて ごめんね」

 いだいなるまほうつかいは いいました

 おんなのこの おようふくは ちょっぴり にがてなのです


「いいのよ これだけで もう じゅうぶん すてきだわ」

 およめさんは わらいました



 ★★★


 ――わかる。

 わかるよ父さん。俺いま産まれて初めて父さんと通じあった気がする。

 女の服ってわっかんねぇよな。こっちが良いと思う服と、向こうが良いって言う服ってなーんか違うんだよ。

 俺なんか、ピンクで、ちょっと花柄だったりして、ひらひらーっとしてれば全部可愛く見えちゃうんだけどさー。

 ――って、そうじゃねぇか。

 ていうか相変わらず、今回も気障だぜ、父さん。

 空気の舟かぁ、乗ってみてぇな、俺も。

 あ、でも底もスケスケなんだよな。やっぱ怖いかも。そう考えると母さんって結構度胸あるよな。

 これも舞台はやっぱり東北なのかな。海って太平洋? それとも日本海? この城も、絵本の中じゃ西洋の城みたいなの描いてあるけど、実際は熊本城みたいなやつだったりして。


 などと考えて、少し笑った。


 あれから、何度かコップの水を試してみたが、やはり量は増えることなく、ただ塩味がつくのみだった。

 もちろん、使った分の塩分は小まめに補給するように心がけたけど。


 しかし、この塩分が自分の体内にあるものだとすると、水の量が増えるというのも、もしかして体内の水分を使うのではないだろうか。

 人の身体の60%は水分だっていうけど、町中が水浸しになるくらいまで、って、父さんたぷたぷし過ぎじゃね? それとも、魔法使いって身体の構造がやっぱり違うのかな。


 でも、たしか海とか川の水も借りてこれるんだよな。

 てことは、わざわざそこから引っ張ってきたとか?

 でも、絵本ではコップの水をかき混ぜただけだったはず。どっかから持ってきたなんて描写はなかったぞ。


 考えても考えてもわかりそうでわからない。


 もう何度目かはわからないが、もう一度コップの中に指先を入れる。


 頼むよ。

 お願いします。

 すぐに水分補給するから。

 ちょっとだけなら良いから、俺の水分使って良いからさ。

 増えてくれよ、いや、増えてください。

 お願いしますって。


 目を瞑り、祈るような思いで水をかき混ぜる。かき混ぜる。かき混ぜ……。


 ――あれ?


「ちょちょちょ、マジかよ!」


 いつも通り、やや控えめに入れたコップの水位が、あと少しで溢れてしまいそうなくらいになり、思わず指先を引き抜く。慌てて抜いたため、布団に少し飛沫が飛んだ。


「俺の布団も受難だな。――いやいやそんなことより!」


 増えた……よな。

 俺こんなに汲んで来てねぇし。

 でも何で成功したんだ?

 ていうか、水分補給しないと!


 またぶっ倒れては敵わない、と、増えたばかりのコップの水を一息に飲んだ。よくよく考えてみれば、それがもし体内の水分だったとしてもそれっぽっちで倒れるわけがないというのに。


「やべっ、せっかくの証拠を! ま、まぁ、また増やせばいいか……。まず落ち着いて考えるんだ」


 いままでと何が違ったんだろう。

 左手でコップを持って右手でかき混ぜる。これはいつもと変わらない。目は……瞑ったけど、これまでもちょいちょい瞑ってたよな。

 あー、ちょっと指示が具体的だったかな。これか?


「よ、よし……。これでいってみよう」


 もう一度試してみようとコップに目を落とし、つい先ほど飲み干してしまっていたことに気付く。


 はやる気持ちを抑えきれず、階段を駆け下りた。玄関の前を通った瞬間、インターホンが鳴った。

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