第2章 いだいなる魔法使いの お嫁さんさがし

2-1

 いだいなるまほうつかいは めの みえない むすめと であいました 


 むすめは めが みえなかったので いだいなるまほうつかいのことが ちっとも こわく ありませんでした


『あなた まほうつかいと いったわよね それなら あたしの この めも なおせるかしら』

 むすめは うみの ちかくで そだったので もういちど うみが みたかったのです


『ぼくは めを なおすことは できないけれど あたらしく つくるのなら かんたんさ』

 ざいりょうさえ あれば ものを つくることは だいとくい なのです


『あたし いまは おかねが ないけれど およめさんになったら たくさん はたらくわ あたらしい めの おかねは それでいいかしら』

 むすめは いいました


『おかね? そんなものは いらないよ きみが ぼくのそばに いてくれるのなら』

 いだいなるまほうつかいは いつも ひとりぼっちでした 


 だから かぞくが ほしかったのです


『でも どうやって つくるの? ヘビや ネズミの めを つかうんじゃ ないでしょうね』


『だいじょうぶ ぼくの めを つかうんだ』


 そういうと いだいなるまほうつかいは 

 むすめの まぶたに みぎてを

 じぶんの まぶたに ひだりてを そっと そえました


『はい もう いいかな めを あけてごらん』


 むすめは おそるおそる めをあけました


 すると どうでしょう


 とおくのやまの そのてまえ 

 ひっそりと さいている コスモスの はなびら 

 いちまい いちまいまで よーく みえるのでした


『とても よくみえるわ ありがとう でも あなたは だいじょうぶなの?』


 むすめのために じぶんの めを ざいりょうに したのです


 いだいなるまほうつかいの めは みえなくなって しまったのでしょうか


 いいえ そんなことは ありません


『だいじょうぶ ぼくのめも ちゃんと みえているよ いままでが みえすぎたのさ これからは きみと おなじけしきを みることに するよ』


 むすめは はじめて いだいなるまほうつかいの すがたを みました


 そこには とても おおきな おおきな ヒノキの きが ありました


 よくみると それは いだいなるまほうつかいでした


 いだいなるまほうつかいは きまった かたちが ありません


 たまに ヒノキの たいぼくに なり


 たまに タンポポの わたげに なり


 たまに たきをながれる みずに なりました


 でも これからは むすめとけっこんし かていを もつのです


 だから むすめが こわがらないように にんげんの すがたで いることにしました


『ぼくのこと こわくないかな』


『こわくないわ あなたが どんなすがたでも おなじけしきを みているんでしょう?』


   ☆☆☆

 

 俺は、ぱたんと絵本を閉じた。


 ――何だよ。

 父さん、かっこよすぎじゃね? 出会ってすぐの女のために、ぽんと自分の目を犠牲にしちゃうのかよ。しかも何か台詞がいちいち気障!


 ――あ、でも、これは母さんの補整が入ってるのか。


 ていうか、父さんの姿……決まった形がないってマジかよ。

 てことはいまも、何かの一部になってるってことか?

 魔法の練習をすれば、それを見破れるってことなのかな。


 おい、父さん、いまも近くにいんのかよ。

 おい、ちょっと良いから顔出してくれよ!

 あっでも出来れば人間の姿で!

 認めたくないけど、俺ちょっとビビりっぽいからさ。

 なぁ、おい、父さん! 頼むよ!

 ヒント! せめてヒントだけでも!


 近くにいるかもしれない父親に向かって念を飛ばしてみる。


 漫画とかなら、こういうので『息子よ……』何つって出て来てくれるもんじゃねぇか。それを期待して。


 自室の中を行ったり来たりしながら、俺は父親に念を飛ばし続けた。

 しかし、30分ほど頑張ってみたが、何も反応がない。さすがにだんだんばかばかしくなってくる。


「俺、なーにやってんだろ」


 わざとそう声を出し、ベッドの上に大の字に転がった。天井に備え付けられたシーリングライトの光が眩しい。


 右手で光を遮ろうと顔の前に移動させると、第一関節のみだったが、指先が少し透けているのに気付いた。


 指って光が通るんだったかな。そう思って、左手で右手の指先を握ってみた。


「――ん?」


 今度は右手で左手の指先を握ってみる。


 おいおいマジかよ。こういう感じなのか。


 右手の指先、第一関節だけ、妙にスカスカと柔らかくなっている。


 ――そう、まるで、水の中で乾いたスポンジを握ったような。


「俺、指先だけ魔法使いになったのか?」


 この指は握るとスポンジだが、機能面や強度等は変わらないらしい。


 でも、手を繋いだりしたらやっぱりばれちゃうのかな。


 そう思って、未だ繋いだことのない千鶴の白い手を想像した。

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