ココロ

「やれやれだな……」

「……終わった?」

「ああ」

 樋口の惨殺シーンから目を離し、全てが終わったことを意識すると自然と安堵のため息が出た。

「正直ギリギリだったな」

 ゾンビを操る能力――今だ未知数だったこの力を俺は感覚的に密かに発動させていた。すると、意識して力を使用したためか、無意識に発動させた時とは違い、俺はあの飛び降りた臣下のゾンビが存命であることと、その位置が何故か分かったのだ・・・・・・

 後は簡単だった。ゾンビに俺たちの場所を探すように命令し、樋口達の死角である背後から襲うようにした。

 臣下のゾンビは俺達の位置はすぐに分かったようだった。ゾンビは視覚、聴覚共に常人よりも遥かに優れている。その超人的な聴覚を持って俺達の場所を突き止めた。馬鹿笑いしている奴もいたし、簡単に分かっただろう。その点はあのデブに感謝しなければならない。

(この力、もう少し調べる必要があるな)

 ゾンビ達からではなく、人間に対しても自衛として有効になるこの力は俺の武器になるはずだ。

 まず、駄目元でこの能力について知ってそうな幼女に聞いてみるか……

「おい……」

 呼びかけようとして、まだ名前を聞いてなかったことに今更だが気がついた。

「お前、名前はなんて言うんだ?」

「名前?」

「ああ」

女王クイーン――――」

「は?」

「そう呼ばれてた……」

 いや待て。それは名前じやない。どちらかと言うと、コードネームとかそう言った類いのものだろう。

「お前、どんな奴にそう呼ばれてたんだよ?」

「白衣着てた……」

 白衣……まあ、単純に思い浮かぶのは医者か研究者だよな?

「それ以外は?」

「白衣」

「いやだからそれ以外な?」

「白い服」

「言ってることおんなじだよな!?」

 駄目だ。なんとなく分かってたけど、この幼女かなり抜けている。てか、よくこんなんで今まで生き残ってきたな。逆に凄いよお前。

「……ああ、もういい。話を戻すぞ。お前の名前だが――」

女王クイーン

「それは却下だ」

 なんでこんな幼女を女王(クイーン)と呼ばなければならない。似合わないにもほどがあるだろう。

「……」

 しかしいざ名前をつけようとしても簡単には思い浮かばない。一瞬ポチとか浮かんだが、流石にそれはまずい。人間の名前じゃない。

「じゃあ王様は?」

「あ?」

「王様の名前は?」

 ああ、そう言えば、俺も名乗ってなかったな。

「俺は――」

 名乗ろうとして口を閉じる。実を言うと、俺はどう考えても男には聞こえない自分のこころという名前が嫌いだった。

「ああ、なんだあったな」

「?」

 ちょうどいいのがあった。どうせ一度は死んだ身だ。なら名前をやっても別にいいだろう。



「お前の名前だ。ココロ……ってのはどうだ?」



 パチパチと、何度も幼女は瞬きをした。

「どうしてココロ?」

「いや、元は俺の名前だったんだけどな。いらないからお前にやるよ」

「いいの?」

「どうせ捨てる名前だしな」

 いいも悪いもない。

「ココロ……うん、ココロ」

 何度も何度もココロと呟くと幼女――





「私はココロ」





 いや、ココロは初めてにこりと笑った。


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