未来永劫の幸せを
時は流れ、卒業式。
全校生徒が体育館へと集められ、校長やお偉いさんの話を聞き、一人一人卒業証書を貰っていく。
中には泣いている奴や、興味がないのか爆睡してる奴までいる。
だが、正直俺はそれどころではなかった。今朝、今日こそ勇気を出してヒカリに想いを伝える決意を決めたからだ。
この高校には、一つジンクスがある。それは、
『卒業式の日の夕方に屋上で結ばれた男女は、未来永劫幸せに生きることができる』
というものだ。
我ながら乙女チックではあるが、今はこのジンクスに
式は
それに連なり、俺の緊張はさらに高まっていく。
場所、時間、言葉。全てを少しずつ頭の中に纏めて、ホームルーム前の教室で、一人静かにヒカリへのメッセージを携帯に打ち込んでいく。
そんな時だった、一件のメッセージが届いた。
送信源はアキラ。同じクラスなのに一体どうしたのかと、メッセージを開く。
そこには、
『ちょっと二人きりで相談したいことがある。ホームルームが終わったら屋上まで来てくれ。ただし、ヒカリには内緒で頼む』
そう書かれていた。
尋常ではないほど嫌な予感がした。それでも、親友の頼みを断るわけにもいかないため、ホームルームが終わってヒカリと一時別れ、俺は屋上へと向かった。
「よ、わざわざ悪いな」
「ったく何だよこんな場所に呼び出して…言っとくけど、野郎からの告白は受け付けねえぞ」
「……悪いが、冗談を言ってる場合じゃねえんだ」
いつもの軽いノリをぶつけるも、アキラは真剣な表情でそれを遮る。
分かっている。軽いノリは不要なことくらい。でも余裕がないんだ。こちらの心にも。
「で、相談ってのは?」
聞かないわけにはいかない。でも聞きたくない。時が止まれとも願った。それでも時が止まるワケもなく、アキラは口を開いた。
「ヒカリから屋上に呼び出された。伝えたいことがあるって」
「…………そうか」
言葉が出ない。頭が動かない。それでも平常心を保たなくてはならない。そうしないと、そうしないと自分がどうにかなりそうだから。
「で、お前はどうするつもりなんだ?」
ようやく絞り出した言葉。ゆっくりとだが思考が回転を再開した。
「もし告白なら、俺はヒカリと付き合いたい。あいつとの関係は終わりたくない…もっと続けていきたいから」
「ならそれでいいじゃねえか。いちいち俺を呼ぶほどの事だったか?」
「一応お前には伝えておきたくてな…で、お前はこの答えをどう思う?」
声のトーンからして、俺の気持ちに勘付いてはいないだろう。それでも、やっぱり気にはなるらしい。
本当は否定したい。でもしたくない。
「親友二人が幸せになる。それを祝福しないわけがないだろ?」
嘘だけど真実。考える前に口が紡いだ言葉。
二人が幸せになることは俺も嬉しいし、俺も望んだ事だ。だが同時に、ヒカリを取られたことが気にくわない。納得したくない。ただの傲慢なのに、八つ当たりでしかないのに。どうしてもその考えが頭に浮かんでしまう。
「ありがとな……」
「あぁ。その代わり、ヒカリを傷つけたり泣かせたら、今度は俺がお前をぶっ飛ばすからな。覚悟しとけ?」
アキラに向かってニカリと笑う。笑わないと崩壊しそうだから、無理やり笑った。
「そいつは勘弁願いたいから、約束してやるよ。その話」
そしてアキラもニカリと笑った。
「そうか…なら安心だ。あと、こういうのはお前が先にいてヒカリを待ってたほうが良いらしいぞ?何かの本で読んだ」
「なら俺はずっと此処にいることにしよう。いつ来てもいいように」
時刻はまだ一時過ぎ。正直早すぎる気もする。
「気が早すぎると思うがな。まぁいい。じゃ、お邪魔虫は早々に退散するから、後は頑張れよ」
「あぁ。ありがとな、親友」
「おぅ。幸せになれよ、親友」
俺はアキラと別れ、屋上を後にする。
「さて………」
結局俺は敗者。アキラに挑んでいたのは勝ち目のない
勝者と敗者は決まっている。勝てないことが決まっているゲームはやはり存在していたのだ。
とはいえ、敗北が決まった俺にもまだできることがある。
その準備をするために、俺は学校を出た。
時間はまだ少し余裕があるが、急いでおいて損はない。
俺は少し足早に、目的地へと向かって歩いて行った。
自分自身の本心に疑問すら持たないまま・・・
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