柔らかなベッドだった。

 「触っただけで出るようにならない?」

 色気も何もない言葉をかける少女は、青年の細く引き締まった腰に手を軽く触れながら呟いた。

 「僕は、君の給餌器じゃないですよ」

 と、言うと彼女の引き締まりすぎた胸に触れる。

 「私は……一向に……ん、構わないけど?」

 喘いだ少女に青年は「僕が構うんですよ」と言うと、柔らかな首筋に口づけする。

 「吸血鬼……みたいね」

 白く綺麗な肌だった。

 なので、つい吸い付いてしまうのだが……確かに愛撫の時には、首筋に口づけをすることが多かったような気がする。

 それに……

 「……ん」

 反応も良いので、良いのかと思ったからでもある。

 「気持ちいいですか」

 「気を使わなくていいから、早くしてね?」

 この夢の世界では、ルッフェは魔術が使えない。

 もし、現実なら、相手の臀部から電気でも流して、射精を促す方法があるのだが……

 その手は、ここでは通用しないので、青年のされるがままになっていることが多い。

 反攻するときがあっても、それは、彼がその気になったときくらいだ。

 押し倒しても、精神修養を修めた聖騎士に欲情を抱かせる方法が、思い浮かばないのである。

 「売春街にでも行って、手練手管でも覚えておけば良かったわ」

 などと考える。

 「何を考えてるんですか?」

 と、筒抜けの思考を読まれ、赤くなる。

 発言の羞恥からではなく、息も荒く熱くなっているのを感じる。

 快楽は与えるものだった……筈なのに。

 「ねえ」

 青年の目の前に、朱の挿した唇が妖しく蠢く。

 「甜めて」

 青年は、それに答えるように彼女の唇に舌を這わせて、唇を裂いた。

 青年との繋がりを感じて、少女は恍惚と目的を忘れた。

 「……」

 その思考を読んだ青年は呆れ、苦笑しつつ、自らもまた、少女の躰にのめり込んでいる事実を再確認した。


 ベッドから、不意に飛び起きる。

 軋むベッドの発条。

 この世界は、一応銃を作る程度の鍛冶技術が存在する。

 銃そのものの武器としての価値は、弓と同レベルだが……

 冶金技術も高いため、発条も非常によく弾む……

 まさに宙を泳いで、床に着地する。

 『なに?なにごと!?』

 随分とアンニュイに事後の快楽に耽っていたルッフェは、この変わり身に軽く混乱している。

 飛んだランスロットもつい気配を受けて「反射」で飛んだので、よくは理解していなかったが、次の瞬間……理解した。

 「どうなさいましたか?」

 その視線の先に、見覚えのある使用人服を着た少女がーーいや、少女の人形がガラス玉の目線をこちらに向けていた。

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