その表情は苦悶。

 驚愕。

 悲鳴。

 阿鼻叫喚の世界を表現していた。

 行商の馬車を襲ってきた山賊は約30人。賊というには、規模が大きいため、どこかの反社会的組織かもしれない。

 数を見た行商の護衛五名は、一人を残して逃げ出し、残った一人は、自ら殿を買って出て行商を逃した。

 逃げた行商は運良く街道警護の警ら中の団員に保護され、彼の証言により、討伐隊が組織されたのだが……

 駆けつけた討伐隊の目の前には、片目を抑えて絶命した様々な悲惨な表情を浮かべた死体が並べられていた。

 「どういうことだ?」

 検死を行っていた団員の報告を受けた部隊長が疑問符を頭上に浮かべながら、首をひねる。

 「話では30人はいた筈だぞ?なぜ、最後に残った青年の遺体がない?」

 アッシュグレイの髪を持つ軽装の青年でほとんど只の値段で、護衛に入った青年。

 剣は帯びていなかったが、魔法使いの杖……のようなものを持っていたらしい。

 残された死体は、細い鋭利な刃物で、目から脳へ……

 恐ろしく正確無比な一刺しで、運動中枢を破壊していた。

 それでも、数瞬生きていたのだろう……

 いや……まさか、わざわざ生かしていた?

 部隊長は、頭を振った。ほとんどが一合も打ち合わず、容赦ない即死させる急所「脳」を狙った一撃。

 生きていたのは、使った武器が悪かったのだろう。

 「おそらく、フォイルだな」

 「今の時分にですか?」

 「剣術使いなら、武器は関係ない……刺し口の鋭さと傷口がきれいな所を見ると……な」

 騎士の嗜み程度の価値しかない儀礼用もしくは試合用の物しか見たことはないが、たぶん、それとそう変わらないものだろう。

 大人数に囲まれた状況で、使う武器ではない。

 確実に……

 部隊長の首はさらに角度をましたのは……

 「隊長!誰も逃げた痕跡がありません!」

 と、いう報告を聞いたからである。


 『聞いたことないわ!いきなり正面突破なんてする!?』

 ルッフェのけたたましい声を聞いて、首をすくませる。

 『防御の盾も鎧も『魔法』で作らないなんて!』

 「ああ、あの程度なら……」

 手に持つ杖を足元で鳴らした。

 「これで十分だ」

 まず、速攻で相手の首領に容赦なく目から、脳へフォイルを通した。

 混乱した野党をすり抜け、背後に回り反応した人間を一撃で目を突く。

 間合いを取り、目を穿ち。

 その様は、まるで舞っているかのような華麗さがあったが……

 さて、人生最後のそれを感動して見られていたか……あの残念な山賊共が……

 三十人程を、ものの五分ほどで無力化している。

 「そうだな……自慢じゃないけどーー」

 青年ーー剣聖位持ちの聖騎士ランスロットは、怒るルッフェに悪びれもせずに言った。

 「僕に勝ちたければ、内臓器官を置いてきたほうがいいね」

 『生き物相手に負ける気はないってこと?』

 ルッフェは、珍しく自慢げに自分の技量を誇るランスロットが、年相応の未熟さを見せたことが少し嬉しかった。

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