異郷徒

 久しぶりの清潔なシーツの上で、羽化前の蛹のように蠢動する少女。

 乱れた暑い吐息を漏らしながら、自分の豊満ではない乳房を弄っている。

 比較的豊満な体つきのこの大陸の女性たちを見てきた少女の最大のコンプレックスであり……

 彼女が「成長を止めた」理由でもある……

 そんな彼女の躰付きに一切文句をつける事なく、むしろ好ましいと思っている青年は、夢すら見ない眠りの中にいる。

 夢魔として持て余す性欲を自慰行為で慰めているのに情けなさを感じてはいるが……

 『娼婦の真似事はさせない』

 と、真顔で言われ続けていると……

 完全に肉体を支配している時でも、罪悪感というものが生まれるものである。

 指先が陰核に軽く触れて、声が出る。

 すかさず口を抑えたが……聞こえるはずはないはずであるし、表層思考程度は筒抜けなので「起きていたら」何をしているか丸わかりである。

 ゆっくりと刺激を強く……腰が自然と浮いていく……

 「イキーー」

 絶頂を迎えるその瞬間!


 「……」

 朝起きると、随分とベッドの様相が変わっている。

 何よりも自分が寝る時に彼女の着ていた物がない……

 「またですか?」

 『文句ある?』

 不機嫌そうに彼女が言う。

 「……僕達が変わる時間帯はわかっているでしょう?

 なんで、そのギリギリを狙うんですか?」

 理由はいくつかあるのだが、それをいう気は無かった。

 『夜は私の時間なんだから……別にいいでしょ?』

 いつもの様に身支度をしながら、こんな他愛のない話をしているのは、いつもの事だった。

 宿を出ると不思議な一団が大通りを歩いていた。

 『珍しい……ロマだわ』

 「大道芸人ですか?」

 本来の意味としては「中東欧の移動民族」なのだが……

 この大陸では、祭りなどの賑やか師や大道芸人の一団のことを指す。

 そして、その大半が「異郷徒」と呼ばれる人種である。

 他の大陸の出身者、または「至高聖神」以外の神を信仰する人々のことである。

 前者は、特に迫害の対象となり海岸線の隔離地区に住んでいる。

 もし「至高聖神」に改宗するのなら、隔離地区から抜けられる。

 この世界の神は、意外に気さくなので改宗するのは簡単である。異郷徒でいるのは、堅い信仰を持つ信者くらいである。

 「僕の母は、優美光神……ホーロ・クレアの信者でした」

 『珍しくも無いわね』

 この世界の三大神の一柱。慈悲の心を好む神である。

 もう一柱は、戦勇美神。勇気の心を好む神がいる。

 『神名を言える資格があるってことは、司祭位なのね……』

 「ええ……」

 ちなみに聖騎士であるランスロットは、至高神の神官位を持つが……

 「剥奪されてますがね」

 『だったわねー。神官位って剥奪できるものだったのね?

 ある意味で資格っていうより、技能だと思ってたわ』

 「権利が剥奪されただけです。法術は使えますよ」

 『めったに使わないわよね?』

 「気をつけてますからね」

 しかし、改宗したからと言っても差別が無くなるわけではない。

 なので、放浪民のような生活を送るのが普通である。

 ランスロットの母親のように貴族に仕えるというのが例外中の例外なのである。

 「あの一団も今日、ここから立つようですね……

 ちょっと話をしに行きましょうか?」

 『私に拒否権は無いわよ?』

 勝手にしなさい。

 また、無償護衛を買って出て、苦労するのは「知っている」

 いつもの事だが……

 最近では、この人の善意を信じている聖騎士の行動を好ましく思えるようになってきている。そんな自分に驚いた。

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