身支度
冒険者の朝は早い。
『……いえ?そうでもないわよ?暇なときは昼まで寝てるし、お金に余裕があればだけど……』
「そういう自堕落な生活しているから、悪いことを考えるんですよ」
身支度には、宿場の宿なら井戸を使わせてくれるところがあるが、普通は手桶の水を用意しておいてくれる。
その水で顔を洗い、歯も磨くのが普通である。
『私は水浴びがしたいわ!』
「それこそ、贅沢です」
水は只じゃない。井戸は一つ。しかも、幾つかの宿で共有しているのが普通である。
宿泊客が挙って井戸を使おうとすれば、当然、芋洗い状態になる。
故にサービスという形で水を配るのである。
「まあ、昼まで待てば……井戸も使わせてくれるでしょうけどね」
『そもそも、長逗留するお客は上客だから、大切にしてくれるわよ?』
「……都市の宿の話でしょう?
宿場街では、すぐ追い出されますよ」
手早く身支度をする。
戦士系の準備は、体を動かすための準備運動をする。
彼ーーランスロットは、とある事情から騎士特有の剣が持てないので、素振りはしないが、各所の筋はしっかり伸ばす。
『いい運動よね?気持ちもいいけど……』
「いざという時動かなければ意味がないですから……」
準備運動の後、食堂があれば、食事をすることができるのだが……
これまた、込み入った事情で素泊まりの宿にしか泊まれないので、荷物の整理をして宿を出るのである。
ランスロットのほうは、旅慣れてるせいか、荷物をまとめるのが上手く。背負袋にきれいにまとめてある。着替え、非常食、着替え、日用品、着替ーー
「服がかさばってるんです!」
『知らないわよ!下着は我慢してるんだから、文句言わない!』
という、理由でほぼ布を持って旅をしている。
服装はなめしのマント。麻の服と騎士としては軽装である。
『鎧は重い……』
「軽鎧とは言いませんが……革鎧くらいは欲しいですね……」
『いざとなったら法術で鎧創れる癖に……』
まあ、事情があるのである。
荷物を背負って、宿を出ると早速朝市に行く。朝が早ければ、新鮮な食料を手に入れることができる。
パンと干し肉でも手に入ればいい。
もしくは、朝市に合わせて開いている食堂で食事もしてしまおうという魂胆もある。
そしてーー
「できれば、このあたりの情報があればいいですね」
『仕事も含めてね』
ランスロットの家はそこそこ名家であるが、今は、とある事情で家督を剥奪されているため、この旅の路銀は現地調達である。
『騎士なら徴用できない?』
「騎士資格も剥奪されてます」
『甲斐性なし……』
なので、行商人の護衛や配達。
魔物退治などの依頼を受けて、路銀を稼いでいる。
ただ、配達や魔物退治などの仕事は宿場に長逗留になる可能性があるため、なるべくなら行商人から護衛の依頼を受けるようにしている。
まあ、そのためにも周辺の情報は必要なのである。
「……何組かの行商が逗留しているようですね。ただ、この辺はあまり危険度は少ないようですし……自前の戦力で十分かもしれませんね」
『そのときは、元の奴をやっつけて後釜に座りなさいよ……そうすれば、楽なんだから』
「目的のために手段を選ばないのは、賛同ですが。
今は、必要ないですよ……そもそも、僕達の目的はお金儲けではないんですから」
『それも、そうね……
で、どうするの?』
「行商に一応兼ね合ってみましょう……話はそれからです」
『あーできれば目的地まで馬車の中でゴロゴロしてたい!』
「ルッフェ……君は昼間は、だいたい何もしてませんよ?」
『うっさい、ばか!』
昼間は、ランスロットの意識の片隅で四方山話をしているか、暇を持て余してぼんやりしている半夢魔の少女ーールッフェは、唇を尖らせた……ような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます