第2話2


家にやっと着いた私は、靴を整えるのも、カバンを整理するのも、服を着替えるのも忘れて、テーブルにマカロンの箱をそっと置くと、私は何時もよりも丁寧に椅子を引いて、座った。

その箱があるだけでそこの景色は何、一つ変わらないのに、私は気がつけば背筋をシャンとしていた。


ゆっくりと箱に手を伸ばし、音を立てないように箱を取ると中から丸みを帯びた綺麗な色のマカロン達が品よく腰掛けていた。私はまたじっとマカロンを見つめる事をひとりで始めた。じっと見ていたらマカロンが持っている愛らしさや可愛らしさ、お上品な雰囲気が私に入ってくる様な気がした。ポッカリと穴が空いて隙間だらけの私を、マカロンを食べる事で、それらが埋まって元通りになるという幻想を抱いていたのだ。


私は一通り見つめ終わると、マカロンを潰さない様に恐る恐る手に取り、口の中に入れた。

マカロンは想像していたよりも、甘ったるくて今の私にはピッタリだ。


一つ一つ食べて私に戻ろう。

一つ一つ食べて彼を忘れよう。


一瞬、視界が歪んだ。

心の傷がじゅくじゅくと痛む。

じゅくじゅくしているところに塩を塗りたくっているような感覚だ。

心が痛い。



私はこの52個のマカロンを食べ終える頃に彼を忘れることができようか。


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