第6逃亡 神は何を与えたか?④

 木村は三人とある場所へ向かった。

 その場所は木村は未だに黙っている。

 木村は不意に足を止めて、

「着いたぞ」

「え? ここって?」

 マルはその店の看板を確認する。

 そこは、牛丼屋のチェーン店だった。

 牛丼屋の看板にはデカデカと二十四時間営業と貼られている。

「ん? ここか?」

 カズも確認するように木村に聞く。

「入れば分かるさ」

 木村が三人にそう言って、牛丼屋に入った。

 四人が店に入ると、目に映ったのがテーブル席にノートパソコンを広げて打ち込みをしている少年だった。

 木村はそのテーブル席に向かい、

「見つけましたよ。 村先生」

 後ろに居た三人は驚いている。

 見た目が少年寄りで、下手をすると三人より年下に見えるくらいの年と勘違いしたからだ。

 健一は打ち込みをやめて、四人に顔を向ける。

「あら~。 見つかりましたか。 逃亡失敗!」

 健一はその言葉を言った後で、店員を呼んで、

「すみません。 追加の注文したいのですがいいですか?」

 健一は、四人に目を運び目で訴える。

 木村は、

「まぁ、少し早いけど昼飯にするか」

「けど、僕達、お金が」

「大丈夫だよ。 僕が出すから」

 マルの言葉を健一が割って入る。

 そして、三人は牛丼の並を注文をお願いした。

 木村も同じのを注文し、健一も頼んだ。

「牛丼の並が五つですね。 畏まりました」

 店員は注文を聞いて、厨房へと向かっていった。

「さて、答えを聞いてもいいですか?」

 健一の言葉に木村は一枚の紙を机の上に置く。

 五人は紙を確認する。

『私は神である。 私はとても悲しんでいた。 村が飢えに苦しんでいるからである。 不作により、食物が育たなかったのだ。 そして、村の者は食材がなく苦しんでいる。 私はどうすればいいかを考えた。

 そこで私は自らの命を捧げ、村の者達の飢えを治したのだ。 村の者達は私に感謝をした。 そして私は最後に伝言を残した。 私はいつでも待っています。 そして、新たなうつわがきっとあなた達を支えてくれるでしょう。 あなた達の幸せを願います』

 健一は四人にニヤリと笑みを浮かべながら、

「さぁ、答え合わせの時間です」

 木村がその言葉を聞き、話し始める。

「まず、なぜここが分かったかと言うとこの三人のお陰だな。 最初に焼き肉屋と言った時、君は惜しいと言った。 完全には間違っていないということだ。 そして、コンビニと答えたときも遠くなったと言ったが、完全に間違っているとは言わなかった。 つまり、その二つの組み合わせがあるところを探せばいいということになる」

「ほうほう、しかし、組み合わせで行くなら色々な店が候補に挙がりそうになりますが?」

「マル君、君はどうして焼き肉屋と思ったのかい?」

「僕は食材の部分に注目を置きました。 神の存在があって皆が食べている物ですと、牛に当たると思って焼き肉屋と言いました」

「では、セイヤ君、君がコンビニと答えたというのはどういう理由かい?」

「俺が注目したのはいつでも待っているの部分ですね。 いつでも待っているということはいつでも行くことができる。 つまり、今の段階で二十四時間営業をしているところだと思って言いました」

 二人の答えに健一はうんうんと頷いている。

 木村は、二人の答えを聞いた後で再び話始めた。

「この二人の考えは両方とも合っていたのだよ。 つまり、組み合わせれば良かったということになる」

「どういうことっスか?」

 カズが横から話に入る。

「簡単だ。 つまり、牛料理を取り扱っている二十四時間営業の店を探せば良かったわけだ」

「けど、ここでそういうのやってるのいくつも見るんスけどねぇ~」

 その会話の後に店員が五人に注文した牛丼を持ってくる。

 牛丼を置いた後で、店員はごゆっくりと言いながら、軽く頭を下げて厨房に戻っていった。

「そして、もう一つの言葉がこの牛丼に隠されている」

「もう一つって、もう俺らが散々探したじゃないスか」

「いや、まだ使われていない言葉があるんだよ」

 木村とカズのやり取りに村は笑みを零した。

「牛丼は何を使って盛られている?」

「え? そりゃぁ、皿っしょ」

「あ! そういうことですか!」

 そのやり取りでマルは声を上げる。

「マル、どういうことだ?」

「カズ、皿の言い方変えてみて」

「言い方を変える? 皿は皿っしょ」

「器か」

 セイヤが声を出し、カズに答えを言う。

「そうだ。 器はこの皿の事を指していたんだ。 そして、この近辺にあってその条件に当てはまるのはここということになる」

 木村はセイヤの後に話を続ける。

「あ! そうか! 焼き肉屋は自分で焼くから与えるということには当てはまらないのか!」

「その通りだ。 マル君の言ったのは自分で作ることになるから当てはまらないのだよ。 素材などからの技術が書いてあったら当てはまっていたのだが、この書き方だと神が与えてすぐに治ったことになる」

「じゃあ、俺のコンビニはどうなんです?」

 セイヤも続けて木村に確認を取る。

「コンビニの場合は必ずしなければならないことがあるだろ? ヒントはさっきの村先生の奢るだ」

「なるほど。 支払いですか」

「そうだ。 それでは与えるではなく、交換ということになる。 だからそれも当てはまらなかったんだ」

 村は四人の話を黙って、聞き入っている。

「では、村先生。 答え合わせをしましょう。 神は牛を指しており、いつでも待ってるということはいつでも入ることが出来る場所。 そして、器と一緒に食事を提供してくれるところ。 この三つが当てはまる場所は牛丼屋。 合っていますか?」

 木村の答えに健一はパッと笑顔を浮かべながら、親指を立てて

「お見事!」

「とりあえず、これでネタできそうですか?」

「もちろんもちろん。 すっごい助かりましたよ! あ、君達も協力してくれてありがとうね。 おかげで原稿が捗りそうだよ。 じゃあ、皆で食べようか」

 五人は牛丼を頂き、会計は健一が済ませ、外に出たとき、

「あ! あの!」

 マルが健一に声を掛ける。

「ん? どうしたの?」

「そ、その! ササ、サインを頂けませんか!?」

 マルの言葉に健一は目を丸くして、

「いや、そんな緊張しながら言わなくてもいいのに~。 困ったな。 今、書く道具何も持ってないんだよな」

「ここにボールペンとメモ帳ならあります」

 セイヤが横から道具を取り出して、健一に渡そうとする。

「それは嬉しいのだけど、さすがにメモ帳では君のを破いて渡すことになるからそれはちょっとな~。 ん!? そうか!」

 健一は何かを思い付いたのか、提案を持ち掛けた。

「最後に寄りたい所あるけど、寄っていいかな? そこならサイン渡せるかも」

「はい! 大丈夫です!」

 マルは元気よく答えを返す。

「じゃあ、皆で行こうか」

 四人は村に付いていき、ある店に着いた。

 そこは本屋であった。

「少し、待っててね~。 あ、自販機で買えるように小銭渡しとくね」

 健一ははマルに小銭を渡して、店の中に入っていった。

 マル達は健一の話に従い、自販機でアイスを購入して食べながら待つことにした。

 しばらくすると、健一が袋を持って、店から出てきた。

「お待たせ~。 いいの持ってきたよ」

 マル達に合流し、健一は袋から本を取り出す。

「これは?」

 その本は健一が書いている小説とコミカライズされた漫画であった。

「そうそう。 僕が書いている奴。 ちなみに普通に買ったときと違いがあるけど分かるかな?」

「あ! これは分かります! 一回封を開けたんですよね!」

 マルの答えに健一は

「その通り。 じゃあ、最初のとこめくってくれるかな?」

 三人は一冊の本に覗き込むように最初をめくる。

 すると、サインが書かれていた。

 横に、協力ありがとう!とお礼も添えている。

「ファ! あ、ありがとうございます!」

「良かったよ~喜んでもらえて。 あ、ちゃんと三人分用意してるからね」

 そう言って、マル、カズ、セイヤに小説と漫画を渡した。

 もちろん、全てにサインが書かれている。

「ありがとうございます!」

 三人は本を受け取った後、頭を下げてお礼を言った。

「いいよいいよ~。 これくらい。 また、会った時あったら話しかけてね」

「ありがとうございます」

 三人はお礼を再び言って、健一達の目の届かない所まで離れていった。

 そして、健一と木村の二人だけになり、

「村先生」

「どうしました?」

「俺の分は無いのですか?」

「木村さんは経費でお願いします」

「これはお厳しい」

 さすがに健一でも、木村の分は用意してくれなかったようだ。

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逃亡作家 村健一 トマトも柄 @lazily

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