第5逃亡 神は何を与えたか③

 木村は三人に新聞に小説を載せていること、その作家が変わり者だということ、その作家からゲームを出されていることを話した。

 三人は木村から渡された紙を見て、悩んでいた。

「これ、適当に探して見つけた方がいいんじゃないんスか?」

 カズが言うと、木村は首を横に振った。

「それじゃあ、だめなんだよ。 この問題の意味も答えないと正解とみなさないと言われているんでね」

「カァ~! めんどくさい人っスね~! その人は!」

 カズは苛立ちを込めた声を出しながら、考えている二人に話しかける。

「お前ら、分かったか?」

「自信はないけど、もしかしたらって場所なら……」

 マルの答えを聞いて、木村とカズは目を丸くする。

「その、俺も思い当たる場所がある……」

 セイヤも答える。

「嘘だろ!? 分かったのか!? お前ら!」

「待って、待って! 当たってるか分からないから! それに木村さんに聞きたいこともあるし」

 マルが言うと、木村に向いて、

「これ、僕達も答え出しているのですけど、助っ人って使っても良いのです?」

 それを聞いた木村はハッと驚いた顔をしている。

「そういえば、確認していなかったな。 少し、聞いてみる」

「あ! それともう一つ聞いて欲しいことがあるんですけど、僕達が行っても大丈夫かどうかも聞いて欲しいです」

 マルの言葉に木村は疑問に思ったのか、

「どうしてだい? 行っても少し話だけして帰るだけだぞ」

「その人って村 健一先生ですよね」

 木村は言葉を聞いた瞬間、目を丸くする。

「ナッ! ナっ!」

 驚きを隠せない木村にマルは言葉を続ける。

「実はそういう変わったことをする人って最近SNSで見たのですよ。 ファンとかの間でも有名みたいですよ」

「マジかぁ~」

 木村は落胆して、頭を抱えた。

「じゃあ、君達は行ったらサインとか貰えると思っているのかい?」

「できたら欲しいです」

 マルは目を輝かせながら答える。

 そこで、カズが割って入り、

「何だ、その村だっけ? 有名人?」

「ほら、前に三人で見たアニメの……」

「あ~あのアニメか。 あれの関係者?」

 そう聞くと、セイヤが答える。

「あのアニメの元の話を作った人」

 カズの表情が固まって、動かなくなる。

 木村が三人の話を遮るように手の平を三人に向けて、電話をしている仕草を見せている。

 三人は木村を見て、期待を込めているかのように目を輝かせながら見ている。

 木村は苦笑いをしながら受話器に耳を傾けた。

『もしもし。 木村です。 村先生、今大丈夫でしょうか?』

『おう! や~っとかけてくれましたか! 待ってたんですよ。 で、どうです? 分かりました?』

『今、解いている最中ですね。 一つ確認しておきたいのですがいいでしょうか?』

『いいですよ~。 何かお困りごとでも?』

『実はこの謎を解くのに助っ人をしてくれてる人がいましてね、協力して解くというのはルール違反に当たるのですか?』

『ん? ありあり! 全然ありですよ~! だって私、何が違反とかどうこう決めてませんよね? ダメだったら最初に言ってますよ。 常識の範囲だったら何をしてもいいですよ~』

『それで、村先生のことであることが助っ人の人に分かられまして、お会いしたいと言っているのですが……』

『いいよ、いいよ~。 こっちは大丈夫です~』

 木村はその言葉を聞いて、三人に人差し指と親指で輪を作ってOKのサインを送る。

 三人は静かにガッツポーズを取っていた。

『分かりました。 今からお伺いいたします』

『あ、その前にその助っ人の人に電話を替わって貰ってもいいです?』

 木村は三人を呼び寄せるように手をこまねいている。

『少し確認します』

 受話器を手で覆い隠すように押さえ、

「君達と会話したいって言ってるんだが、誰がする?」

 そう言いながら、カズに視線を合わせる。

「俺、態度あんま良くないんで、無理っス」

 次はセイヤに目を合わせ、

「俺、あまり詳しくないので難しいです」

 最後にマルに視線をずらすと、

「出ます! 僕、出ます!」

 目を輝かせながら答えるマルに、木村は携帯電話を手渡した。

『もしもし』

 マルは声が少し上ずった状態で話しかける。

『もしもし。 初めまして。 私、村 健一と言います。 よろしくお願いします』

『ひゃ、ひゃい! 村先生の本はいつも読んでおります! とても、面白いです!』

『え、え~と。 緊張している感じですね~。 少し、深呼吸しましょうか』

『はい!』

 そう言って、マルはスッと耳から受話器を離し、大きく深呼吸をした。

 マルの様子を見ていた三人は大丈夫かと不安に感じている。

『もしもし。 もう大丈夫です』

『お、落ち着いた感じかな? 協力してくれてありがとうございます』

『あ……あの、村先生。 僕、まだ高校生ですので、できたら敬語を使わずに話して欲しいのですが……』

『あ、敬語無しでいい? 助かるわ~。 で、どう? 分かった?』

『ええ、神の部分なのですけど、これって動物……ですよね? 神は飢えを自分の命を使って助けたのですよね。 飢えを凌ぐためには栄養を取らないといけない。 つまり、この神は動物の可能性が高いということです』

『おぉ~いい線ついてるね~。 ちなみに動物は何だと思う?』

『僕の考えでは牛又は豚だと思っています。 牛はミノタウルスという神話の話がありますし、豚は国によっては神に等しい存在と言われていると聞いたことがあるからです』

『おぉ~すごいね! ほぼ正解に近いよ。 じゃあ、俺がどこにいるか分かるかな?』

『はい! 先生のいる場所は焼き肉屋ですよね!』

 マルは自信満々に答える。

『う~ん。 いい線はついているのだが、違うねぇ』

『違うのですか!』

 その言葉を聞いたとき、セイヤは紙に急いでペンを走らせる。

 そして、マルに急いで見せる。

『あ、今、友達が新しい答え出してくれました! 答えはコンビニです!』

『あら? 答えが遠くなっちゃったね。 さっきの答えの方が近かったね~』

『そ、そうですか……』

『そろそろ、木村さんに変わって貰ってもいいかな?』

『はい……。 分かりました』

 そう言ってから、マルは木村に携帯電話を返した。

 木村はマルから携帯電話を受け取り、受話器に耳を傾ける。

『どちらとも違うのですか?』

『違ってますね~。 けれど、その助っ人さんの考えはかなりいい線いってますよ。 百点満点なら七十点あげたいくらいですよ』

『そうでしたか。 あまり使いたくなかったのですが……。 式をくれ』

『待ってました! では、ヒントを出しましょう! とは言っても今の答えの内容とほとんどヒントは出ているんですけどね』

『と、言いますと?』

『先程の二つの答えを組み合わせて下さい。 そしたら、答えは見えてきますよ。 それと私からもヒントを一つ。 神は新たな器で支えてくれるのですよ? 新たな器をある物に置き換えて下さい』

『新たな器を置き換えるですか?』

『えぇ。 そうです。 私からのヒントは以上です。 では頑張って下さい。 答えはかなり近いですよ』

 そう言われた後、受話器から切断音が聞こえ、木村は受話器から耳を離した。

「役に立てず、すみませんでした」

 マルがそう言って、三人は頭を下げる。

「いや、大げさだよ! そんな謝ることでもないから!」

 木村は慌てて訂正する。

「それに、君達の答えはかなり近いって言ってたよ。 何でも答えを組み合わせたらもうほとんど出るって言ってたね」

「答えを組み合わせるですか?」

 セイヤが首を傾げる。

「あぁ。 そう言ってたね。 って言うことは答えは部分的に合っているということになるね」

「なるほど」

 セイヤが頷いた。

「ちなみに俺がコンビニだと思った理由はいつでも待っているの部分ですね。 いつでも行ける店ということで考えてました」

「そうだったのか。 で、僕がさっき言った焼き肉屋は神を牛か豚に置き換えたからだよね。 これを組み合わせるってことですね」

 木村はハッと思い出し、

「そういえば、先生からヒントを貰ったんだよ。 何でも新たな器をある物に置き換えたらすぐに分かるってことだね」

「新たな器ですか……」

 マルを含めた三人は頭を抱えている。

 木村も皆の考えをまとめようと話を始める。

「まぁ、今ので牛か豚の中心の場所で、そこへはいつでも行くことができるってことだね。 そこに新たな器だね。 ん?」

 木村は何かに気付いたのか、急いで紙に手を伸ばす。

 そして、読み返す。


『私は神である。 私はとても悲しんでいた。 村が飢えに苦しんでいるからである。 不作により、食物が育たなかったのだ。 そして、村の者は食材がなく苦しんでいる。 私はどうすればいいかを考えた。

 そこで私は自らの命を捧げ、村の者達の飢えを治したのだ。 村の者達は私に感謝をした。 そして私は最後に伝言を残した。 私はいつでも待っています。 そして、新たな器うつわがきっとあなた達を支えてくれるでしょう。 あなた達の幸せを願います』


 そこで、木村は気付いた。

「先生のいる場所が分かったぞ」

 三人は驚いて、木村を見る。

「え!? どこなんスか?」

 カズが答えを求めようと、慌てて聞く。

「時間がないし、今から向かおう。 合っているのならここから近いはずだ」

 マルが慌てて聞く。

「そこって危ないとこではないですよね? 僕達が入っても問題ないですよね?」

「それは大丈夫だ。 その場所は誰でも入ることが出来るからな。 じゃあ、行こうか!」

 

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