第4逃亡 神は何を与えたか?②
木村は途方に暮れていた。
問題の内容が分からず、行く道を迷っていたのだ。
「ええ~っと、簡単に言うと神が人々の飢えを自分の命で助けたってことだよな。 しかしな~、神が出てくる建物と言うとあそこか? さすがにそれだったら簡単過ぎる気がするんだがな。 まぁ、行ってみるか」
木村は一人でぼやきながら道なりに進んでいった。
少しの時間が経ち、木村のたどり着いた場所は、立派な十字架を掲げている教会であった。
その教会に入ろうとすると、教会のドアが開き、親子連れの団体がドアから出てきたのだ。
木村は驚き、邪魔にならない様に道の端に立ち、団体の人達が出ていくのを見送った。
見送ったのを確認してから、木村は教会の中に入っていく。
そこには、シスターと思われる方が入り口に立っていた。
シスターは木村を見て、笑顔で質問をする。
「どうなされました?」
「あぁ、ちょっと聞きたいことがあってね」
「おやおや? 何かお困りごとですか? 私で宜しいのでしたらご協力致します」
「それは助かるよ」
「いえいえ。 困ったことがあれば助け合うのが私達のお仕事ですから」
そのやり取りで、木村は苦笑いを浮かべる。
「あの~。 せめて、敬語はやめて欲しいのだが。 仮にも高校からの友人だろ?」
「申し訳ありません。 今はお仕事中でございますのでなるべく丁寧にしたいのです。 ここで気を抜けてしまうと後のお仕事に支障が出てしまうかもしれないので……」
「まぁ、そういうのなら……」
「もちろん、あなた様はいつも通りのお話の仕方で大丈夫ですよ。 木村様」
木村は呼ばれ方に違和感を示すように、苦虫を噛んだような顔で示していたが、シスターは動じていない。
「じゃあ、少し聞くが、背の小さい成人? の男を見なかったか?」
「背の小さい成人の人ですか?」
「そうそう。 背が大体百五十位かな。 一応成人している人なんだが」
「そのようなお人はお見掛けしませんでしたね。 そのお方とはどんな御関係で?」
「その人はな、作家をしているんだけど、その人を探しているんだよ。 その人から原稿のネタ作りのためにやってはいるのだがね」
「何かヒントになるような物は無いのでしょうか?」
シスターが疑問に思っていることを聞くと、木村はシスターに一枚の紙を渡した。 先程読んだ暗号である。
シスターは手渡された紙を読んで、う~んと悩むのを伝えるかのような唸る声を上げながら読んでいく。
そして、読み終えたのか、神を木村に返した。
「少なくとも、この教会には来ていないと思いますよ」
「どうして、そう思うんだ?」
「最後の方に書いてある文章なんですけれども、新たな器と書いているではないですか。 神が交代するという話はあまり聞いたことが無いのです。 これ、もしかしたら何ですけれでも、神を何かに置き換えているのではないでしょうか?」
「やっぱりか~」
木村はシスターの答えに手を頭に当てる。
「もしかしたら、ここかも知れないと少し期待してたのだが、さすがに違ったか~」
頭を当てている木村にシスターは申し訳なさそうな顔をして、
「お役に立てず、申し訳ありません」
と、頭を下げた。
そのシスターを見て、木村は慌てて手を振って、
「いやいや! こっちこそ悪かった。 ここじゃなかったってだけでも十分な収穫だよ。 ありがとう」
「ええ。 気を付けていってらっしゃい。 あなたに神のご加護があらんことを」
「ああ。 ありがとう」
木村は一礼して、教会を後にした。
その後、木村は一時間程歩き回りながら考えていたのだが、結局場所は分からずじまいであった。
木村は頭を抱えていた。
「神を何かに置き換えているって一体何に置き換えているんだよ!?」
行き場のない怒りを声に出しつつ、足を進める。
足を進めていくうちに、腹から情けない呻き声が木村の耳に入る。
「そういえば、朝飯を食べていなかったな……」
木村はそう言って、腕時計で時間を確認する。
時間は十時四十五分と針が示していた。
「十一時半まで時間はあるな。 軽く飯でも食べるか」
木村は今、大型スーパーのファーストフード店にいる。
そこで、ハンバーガーに噛り付きながら一枚の紙とにらめっこをしている。
「どこにいるんだよ……。 本当に」
考えがまったく分からず途方に暮れていた。
「この神ってもしかして置き換えているのではなくて、探したら出てくる神のことを言っているのではないか?」
けれど、そうなると何の神かをこの一枚の紙で解かなければならないと言うことになる。
けれど、神は空想の存在や過去に呼ばれていた存在を探すとなるとあまりにも多過ぎて絞るとなると大変なことになってしまう。
木村は再び頭を抱えた。
「何か少しでも情報があればいいんだが……」
そう言って、木村は頭を上げて、周りを見渡す。
周りを見渡しても、情報は入ってこない。
「どうしたらいいんだよ」
木村が困った表情を出しながら、悩んでいると、隣にいる学生の会話が聞こえてくる。
「最近、僕はこのアプリにハマっているよ~」
「あぁ! お前、また新しいの始めたのかよ! そんなに複数もやってできるのかよ」
「できる、できないではない。 やるのだよ」
「よく、そんなにできるよな。 で、今回はどんなゲームなんだよ?」
「えっとね~。 簡単に言うと、カードゲームだね。 カードが神話の神とかを元にしていたりするから歴史の勉強にもなるよ~」
「それ、ほんの一部の知識だけだろうが」
その学生の会話に木村は学生達の方向に振り返る。
木村はその場で立ち上がり、学生達に近付いた。
「あぁ~。 すみません」
すると、三人いる学生が木村の方に向き、
「ん? 何スか?」
学ランのボタンを外している少年が話しかける。 その少年は威圧を込めて、警戒心を強めている。
「少し、話を聞きたいのだけどいいかな?」
「悪いんですが、こっちは用ないんですわ。 どっか行ってくれます?」
「まぁまぁ、カズさん。 話だけなんだし、聞いてみようよ」
明らかに威圧している少年をなだめるように太った少年が話す。
「マル! こいつが何者かも分からねぇのだぞ! そんな、悠長にしてたらこいつが何するか分からねぇだろうが!」
その言われた言葉に反応して、木村は胸ポケットから何かを出そうとしている。
少年達は何を出すのかと身構えていたが、木村が出したのは名刺だった。
「名乗ってなかってすまなかったな。 こういう者だ。 よろしくな」
木村はそう言って、三人に手渡しで名刺を渡していく。
「新聞記者っスか? で、俺らに何聞きたいんスか?」
「さっきのアプリの話を少し聞きたくてね。 いいかな?」
「まぁ、それならいいっすよ」
そう言って、ボタンを外している少年は隣の席を座るように指を指す。
木村はその合図に従い、隣の席に座る。
「とりあえず、軽い自己紹介だけしときますわ。 俺はカズだ。 で、そっちの丸いのはマルだ」
カズは太った少年を指を指して、言った。
「丸いってひどいな~。 まぁ、合っているけど」
そして、カズはマルの隣の背の高い少年を指を指して、
「で、こっちの静かなのはセイヤだ」
セイヤは言われて、頭を下げた。
「紹介してくれてありがとう。 じゃあ、話に入るよ。 と、その前に何か奢ってあげるよ。 何かある?」
「いや、今、食べ終わったからいらないです」
マルが断るのを確認してから、
「そうか。 欲しくなったら言ってくれ。 話を聞いてくれてるから遠慮しなくていいからな」
「……ありがとうございます」
セイヤが静かに答えて、頭を下げた。
「じゃあ、話を始めようか」
木村はここまでの経緯を三人に話し始めた。
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