第3逃亡 神は何を与えたか?
後日、木村は新聞社で仕事をしていた。
デスクワークに勤しんでいるといると、後ろから軽く肩を叩かれる。
木村は後ろを振り向き、誰かを確認する。
「木村君、いやぁ~君に頼んでよかったよ。 村先生の書いた原稿も良くできておるし、これならそのまま載せても問題ないよ」
「ありがとうございます。 けれど、この担当を私がやってもよかったのでしょうか? 他の担当でもよかったのでは?」
「何を言っとるのだね! この新聞社は地方の週刊で出している場所だぞ! 君みたいな若いのがいて助かっているのも事実であるし、私は君に色々経験をして欲しいのだよ!」
その言葉を聞いて木村は少し納得したかのように頷いた。
この新聞社はベテランの集まりである。
だが、ベテランということは当然ではあるが、年齢層も高いという裏付けでもある。
木村は求人でこの新聞社に入って功績を認められて、正社員になったのだ。
「若いと言っても私は二十後半なんですが……」
「ハッハッハッ! 私達に比べれば十分若いよ! それに村先生のやることだと私達だと体力がキツイのでね」
「そうですか。 分かりました。 村先生の担当は私で行きます。 よろしくお願いします」
「そう! その意気で頼むよ! では、早速だが依頼をしよう」
「はい?」
木村は首を傾げる。
「そう。 その村先生から依頼が来ているんだよ」
「今から原稿を取りに行くんですか? 前に取りに行ってから数日しか経っていませんよ?」
「いや、今回は原稿のネタ作りに付き合って欲しいとのことだ。 原稿の続きを書くのには現地の人の協力が必要と言われたのでな」
その言葉に木村は疑問を持つ。
「原稿を書くのに現地の人がいるということでしょうか?」
その発言に上司は目を丸くする。
「木村君、原稿に目を通していないのかね?」
「はい。 あの後、すぐに次の仕事に入りましたので、すみません」
「いやいや。 そんな謝るほどでもないよ。 今から少し目を通してくれればいいから。 今は大丈夫かね?」
「はい。 今なら大丈夫ですよ」
すると、上司は一度自分のデスクに戻り、封筒を持って再び木村の前に立った。
「これがその原稿だよ」
「失礼します。 中身を拝見します」
そう言って、木村は封筒を受け取り、中身の原稿に目を通す。
原稿の内容を簡潔に説明するとこうなる。
普段の行いが遅刻で有名な作家がおり、その作家は締め切りから逃げるために様々な場所に行って逃げ回るという内容だ。
そして、舞台になっているのが……。
「あれ? ここの舞台って……」
木村の問いに上司は頷き、
「そう、この地方が舞台なのだよ。 私が村先生にお願いしてこの地方を舞台にして欲しいと頼んだのだよ」
「じゃあ、村先生はここを舞台にする代わりにゲームをして欲しいと頼んできたのですか?」
「そういうことだ。 理由を聞いてみると、この地方に住んでまだ一、二年くらいしか住んでいないらしく、この土地に詳しくないみたいなのだ。 それでここに詳しい人物を付けたというわけだ」
「それで私ですか。 確かに生まれも育ちもここですし、条件に当てはまりますね」
「そういうことだ。 で、それで原稿に関するメールが届いている。 転送はしたから確認してくれ」
「はい。 分かりました」
そう言って、木村はパソコンに向かい、メールを確認する。
『お仕事お疲れ様です。 原稿のお手伝いをして頂きたくこちらのメールを送り致します。 日曜日の朝、九時半に私の家に来ていただけないでしょうか。 そこで、ゲームをやって欲しいのです。 お返事をお待ちしております。
そこで原稿の現行についてお話いたします。 げんこうなだけに』
メールを読み終えた木村が呟く。
「さっむ……」
木村は寒気を感じながら、了承のメールを送った。
そして、翌朝。
木村は村の家の前にいた。
木村は腕時計で時間を確認する。 時間は言われていた九時半の十分前である。
木村は間に合ったことに安心しながら、インターホンを押す。
しかし、反応がまったく返ってこない。
木村は渋々ドアをノックする。
「すみません。 村先生~! いらっしゃいますでしょうか~?」
「そいつなら今は留守にしとるぞ」
あらぬ方向からの声に木村は急いで振り返る。
そこに立っていたのは肌の焼けた感じの白髪のおじいさんがいた。
「おう! その部屋のもんから頼まれてなぁ~。 ま~ったく若いもんがワシをこき使いおって! で、あんたが健一に用のある人だな」
「え、えぇ。 村先生にこの時間に伺って欲しいと連絡をもらいましたので……」
「おぉ、そうか、そうか」
そう言って、おじいさんは木村に封筒を手渡す。
「そいつから頼まれてな。 その封筒をあんたに渡すわ」
「ありがとうございます。 それとご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
木村が頭を下げると、
「あぁ、気にすんな。 この前、そいつと飯を一緒に食べとった時に頼まれてな。 その時、飯の代金持ってもらったから、これでおあいこだ」
おじいさんは村とは親しい関係のように話をする。
そこで、木村はふと疑問を持ったことをぶつけてみる。
「あの……村先生とはどういった御関係で」
「ワシか? ワシはここの大家の
ガハハと笑いながら五十嵐は木村に話している。
「じゃあ、渡すもんも渡したし、ワシゃ部屋に戻るわ。 あいつが何かしでかしたらワシにも言うて来い。 そん時は説教したるわ!」
五十嵐は笑いながら、その場を離れていった。
木村は去って行く五十嵐に頭を下げ、見えなくなった後で封筒の中身を確認した。
封筒の中身は一枚の紙で文字が書かれていた。
『私は神である。 私はとても悲しんでいた。 村が飢えに苦しんでいるからである。 不作により、食物が育たなかったのだ。 そして、村の者は食材がなく苦しんでいる。 私はどうすればいいかを考えた。
そこで私は自らの命を捧げ、村の者達の飢えを治したのだ。 村の者達は私に感謝をした。 そして私は最後に伝言を残した。 私はいつでも待っています。 そして、新たな
読み終えた木村は何だこれ? と言わんばかりに首を傾げた。
ふと、触っていた紙の下の方にあとがきみたいに書かれている文字があることに気付き、そこも読んでみた。
『今回は制限時間を付けます。 タイムリミットは九時半から二時間とします。 もし、詰まったら電話をお願いします。 ヒントを出しますので。 暗号の言葉は〈式をくれ〉です。 今日は日曜日なのでどこも開いていると思いますので頑張ってください」
その文を読み、木村は露骨にいやな表情を浮かべた。
「この街の中を二時間以内に見つけろと、厳しいこと言うなぁ」
木村は暗号を解くため、村の家を後にした。
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