第2逃亡 逃亡作家

 会社の事務所にて皆静かに作業をしている。

 静かに作業をしている中、一人の男の声が入ってくる。

「え~。 皆さん、只今電話が入って来て、この新聞社にも小説を載せることができるようになった。 そこで、原稿を確認する担当者をつけたいと思う」

 一人の上司が会社の全員に聞こえるように話す。

 会社の人達の視線が上司に集まる。

「担当者の方は、木村きむら君に任せようと思う。 よろしいかな? 木村君」

「はい!」

 上司に呼ばれた木村という男が席から立ち、上司に近付いていく。

 木村は上司の前まで近づき、目の前で立っている。

 体つきがたくましく、上司が圧を感じているくらいだ。

「うん。 素晴らしい体つきだ! 君ならさぞかし運動も得意であろう! だから君にお願いしたいんだ。 ぜひ頼むよ!」

 上司の言葉に木村は首を傾げて、上司を不思議そうに見ている。

「あの……今の言っていることは仕事に関係あるのでしょうか? 少し話の繋がりが見えないのですが」

「今からその事について話をしよう。 では、打ち合わせの部屋まで行こう」

「はい」

 二人は打ち合わせの部屋まで移動する。

 その部屋は基本的に来客用に使うためであるため、清潔に保たれている。

 その綺麗な部屋に二人の身内が入っていく。

「ここって、来客用の部屋なのですよね。 身内のみで使っても大丈夫でしょうか?」

「ああ、大丈夫だよ。 ちゃんと許可ももらっているから」

 戸惑っている木村を尻目に上司はズカズカと入り込み、近くにあった椅子に座る。

 木村も急ぎつつ、失礼しますと一言の言葉を言ってから椅子に座る。

「では、詳しい話に入ろうか」

「はい。 なぜ、私が選ばれたのでしょうか?」

「うん。 まずは、そこからだね。 この新聞社にも新しいのを入れるってことで小説を取り入れることになった。 先程はここまで話したね?」

「はい。 そうですね」

「そこで頼んだ時に条件を頼まれてね」

「もしかして依頼料を増やせとか言われたんですか!?」

「いや、それは言われていない。 むしろ、逆を頼まれた」

「はい? 逆?」

 木村は首を傾げる。

「そうだ。 逆に依頼料を減らしてくれと頼まれたのだよ。 そこで依頼料を減らす代わりの条件に君が関わってくるのだよ」

「私が?」

「そうだ。 その条件というのは原稿を取りに行くたびにゲームをやって欲しいということなんだよ」

「ゲームですか? テレビゲームでもするんですか?」

「いや、そういう感じではないのだよ。 何でもかくれんぼをして欲しいと言っててね。 暗号を作った文を渡すからそこから隠れている場所を見つけて欲しいとのことなんだよ」

「はあ……つまり、暗号を解いて私を見つけろということですか。 それって現行の遅れって出ないのですか?」

「そこについては話を聞いててね。 見つけれたら直接渡して、ダメだったら次の日に会社に原稿を持ってくるってことでOKが出た」

「何ですか! そのめんどくさいのは! いったいその作家って誰なんですか!?」

「村健一だ」

 その言葉に木村が驚く。

「村健一って、あの言葉選びの天才と言われている作家の人ですか!? よくいけましたね。 その人を」

「そんなに有名なのかい? その作家って?」

 上司が木村に疑問を投げかける。

「はい。 三年前に作品デビューをしており、通な人からは言葉選びの天才と言われている位です。 ただ、相当な変わり者でも有名で何でも依頼料を安くする代わりにヘンテコなゲームを編集者と一緒にやっているという噂もありまして……」

 すると、上司は納得したかのように頷く。

「何だ。 噂通りじゃないか。 じゃあ問題ないな。 では、担当宜しく」

 上司の言葉に木村はポカンと口を開けている。

 固まっている木村に追い打ちをかけるようによろしく頼むよと上司は一言を残して部屋を去って行った。





 その話から数日が経ち、木村は村の住んでいる住所を聞き、只今目の前にいる。

「こんなに近いとは思わなかった……」

 会社から歩いて約十分位の所に住んでいる所に住んでいると聞き、訪れることにしたのだ。

「けれど、ここで合ってるんだよな?」

 そこは家ではなく、普通のアパートであった。

 住所に言われた通り行くと、部屋の前の表札には村と書かれている。

 木村は表札の横のインターホンを押し、待機している。

「はいはい~」

 部屋の方から声が聞こえる。

「おわっちゃっ!! 小指が! 小指が~!!」

 何か叫び声が聞こえるが、木村は敢えて聞かなかったことにした。

 すると、ドアが開き、涙目になっている青年が出てくる。

「お待たせしました。 どちら様でしょうか?」

「私は新聞社の方から来ました木村と言います」

「あ! もしかして、先日お電話をした新聞社の方ですか。 お越しいただきありがとうございます」

 村は丁寧に頭を下げる。

 その村の姿を見て、反射的に木村も頭を下げている。

 二人は頭を上げ、話を始める。

「村先生。 早速で申し訳ないのですが、原稿の確認の方をしても宜しいでしょうか?」

「お! 待ってました! では早速始めましょう!」

 そう言って村は木村に一つのメモを渡した。

「これは?」

「原稿を手に入れるためのアイテムです。 では、早速始めましょうか! 今から私が隠れますので五分後に私を探して下さい。 ヒントはそのメモに書かれていますのでお願いします。 では、五分後に入ってくださいね」

 そう言って、村はドアを閉めた。

 木村はそこであっと思い出したような顔をしている。

「もうゲームは始まっていたのか。 では五分後までヒントを見てみようか」

 そう言って、メモを見る。

『そこは闇に閉ざされている。 そこには闇しか見えない。 目の前には扉があるはず。 開けば光は見える。 だけど、私は開けようとしない。 私は待っているのだ。 扉が開かれるのを。 そこに現れる光の者を』

 木村はなるほどと頷いた。

 そして、考えているうちに五分が過ぎていたのだ。

 木村は腕時計で時間を確認して、時間が過ぎているのを確認してから部屋に入る。

 部屋は意外と広く、奥には和室が一室ある。

 木村は六畳一間の部屋を想像していたのか、へ~意外と広いな~と感心しながら部屋を物色する。

 部屋を一通り見てみるが、村の姿は見当たらない。

 木村は再びメモを確認する。

 そのメモを見て、

「待てよ。 闇の中にいるということはその部屋は真っ暗ってことか? なら暗い所じゃないとおかしいわな」

 木村が周りを見ていると、部屋の電気が付けてあり、見えやすいようになっている。

 暗くなっているところは見当たらない。

 木村は少し考えてから気付く。

「あったな。 

 木村は和室に向かい、和室の中に入る。

 そして、押し入れを開けたのだ。

 すると、体育座りで座っていた村がいたのだ。

「おみごと!!」

 村は木村に向かって喜びながら言った。

「では答え合わせをしましょうか?」

 村の言葉に木村が戸惑う。

「答え合わせ……ですか?」

「そりゃそうですよ。 てきとうに探したら見つけましたなんて言われたらたまったもんじゃないですからね」

「はぁ……」

「では確認しよう! 何故、ここと分かったのだ!?」

「分かりました。 答えましょう。 まず、暗闇ですね。 この部屋の全体を見ると、電気を付けており、暗くなっているところはないと思っていました」

 その木村の言葉に村はうんうんと頷いている。

「そして、そこには扉があるということが重要ですね。 扉があるということはそこは部屋に繋がっているということです。 風呂場に隠れているなら蓋と書きますからね」

 なるほどと村は頷く。

「それで、扉があり、この明るい中唯一暗い場所……。 つまり、この回答は押し入れの中ということになるのですよ!」

「おみごと!」

 村は拍手を送った。

「では、この調子で続けていきましょうか~」

 村は嬉しそうに言っている。

 そして、木村は原稿を村から受け取り、会社に帰った。

 ここから、二人の大人のかくれんぼが始まる……。

 

 

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