第12話

 そうしている間にも登校してくる生徒が増えてくるにしたがって、王子さまの顔色がだんだんと悪くなってくる。


(前は窓を開けるだけでだいぶ楽になられたご様子だったのに。学校の結界を強化してもらうべきだな)


 王子さまは儚い外見にお似合いのごとく、骸虫の放つ穢れに敏感で弱い。それは城下町にある玉都高校、通学路を歩いてきた生徒たちが足に意図せずまとわりつかせてしまう穢れにも反応してしまうほどに。現在も息をするのも辛いという顔色で浅く呼吸を繰り返している。それでも背筋を張りまっすぐ前を向いているのは次期王という責任感故か。


「…すまない。弓削、自習室に行ってくる」

「ご一緒します」

「いや、1人で大丈夫だ。…1人にしてくれ」

「…わかりました。では、いってらっしゃいませ」


 代々の王子さまが使われてきた自習室はその代の王子さまによって、内装や結界の中身は変わってくる。今代の王子さまの場合は場を清める成分を多くはらんだ結界の内容になっている。だから、自習室に行けば気分が楽になりその日1日をなんとか自習室以外でも過ごせると知っている王子さまは朝のHRが始まる前に教室を出ようとする。


 ついて行こうとした弓削朔月は、王子さまに拒否されて王子さまも1人になりたいときもあるだろうと頷いて送り出した。本当は心配だが、王子さまが中に入った時点で玉都高校の警戒度は最高レベルになっていてなおかつ不審者には王子さまが見えなくなる結界も張ってある。倒れないかだけが心配だが、ついてくるなと言われた以上無理についていくことはできない。


 その時、かたんとかすかに鳴った天井に目を向け弓削朔月は小さく手をあげた。王子さま付きのノノウの1人がついていったという証だ。


(ノノウがいったなら、まあ平気か)


 ノノウ、王子さまになにかあった時に即時の連絡や救助に向かえるように訓練された符術も使える女忍者集団のことである。

 たぶんHR、もしかしたら始業式も無理かもしれないからその間の連絡事項をきちんと聞いて王子さまに伝えようと、弓削朔月は椅子に座り直した。

 その時、本鈴が鳴って担任の先生が前の扉をがらりと開けて入ってきたのである。

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