10/9習作『隠したナイフは鋭く光る』

課題『古傷』

・"古"傷とは?

・回想を使わないで、過去に何かあったことを分からせる


おそらく今回の話にムダな部分は一切ないです。

すべてのシーンに意味があります。そういう風に書きました。


『映画には意味のないシーンはない』。いい言葉です。


『隠したナイフは鋭く光る』




人物


水野蓉子(25)中学校教師


小林史也(14)蓉子の生徒


水野君江(50)蓉子の母


堀由紀子(28)蓉子の同僚


女性教師







○学校・外観

 下校する生徒たち。




○同・生徒指導室


 テーブルに向かい合って座っている水野蓉子(25)と小林史也(14)。

蓉子「どうして学校にこんなもの持ってきたの?」

 蓉子、大ぶりのアーミーナイフをテーブルに置く。

 小林、うつむいたまま唇を固く閉じている。

蓉子「これは先生が預かっておくから、保護者に取りにきてもらってね」

 小林、ショックを受けた顔を上げて、

小林「そんな! 何とかならないですか? 親に知られたら取り上げられる」

蓉子「どうにもなりません。学校のルールだから。正直に親に話して、放課後に取りに来てもらってね」

 ナイフを回収して立ち上がる蓉子。

 小林の意地らしい視線が、蓉子の手のナイフに向けられている。




○同・教員用女子トイレ


 洗面台の鏡の前で化粧直しをしている蓉子と堀由紀子(28)。

由紀子「昨日、生徒からエロ本を没収したんだけど、自分のデスクの引き出しにエロ本が 入ってるのってイヤじゃない?」

蓉子「私は没収したことないので……」

由紀子「私がいないときに、私のデスク勝手に漁ってエロ本を取り返そうとしてくるから 鍵かけてやったわ。ざまあみろ」

 トイレに高齢の女性教員が入ってくる。

 ピタっとお喋りをやめる2人。




○同・職員室


 蓉子がデスクの前で固まっている。

 デスクに書類が散乱し、引き出しが中途半端にあきっぱなしになっている。

 明らかに何者かに荒らされた形跡。

 付近のデスクに他の教員の姿はない。

 デスクの引き出しをあける蓉子。

 ゲーム機や少年漫画などが入っている。

 ナイフは入ってない。

蓉子「やられた。小林めぇ……」

 険しい顔で職員室を飛びだす蓉子。




○同・校門


 小林が男子生徒と取っ組み合って喧嘩をしている。

 生徒たちが少し離れて野次馬をしている。

 蓉子が慌ててやってきて、

蓉子「2人ともやめなさい!」

 小林と男子生徒はかなり興奮していて、互いに好戦的な表情。

 男子生徒が小林を突き飛ばす。

 小林、転んで、リュックから何かを取りだそうとする。

 蓉子、小林の行動にピンときた様子で、血相を変える。

 2人の間に強引に割り込み、男子生徒をかばうように小林の前に立ちはだかる。

蓉子「(声を震わせ)そ、それを今すぐしまいなさい! また没収するわよ!」

 小林、キョトンとした表情。

 小林の手にはハンカチ。垂れてきた鼻血を拭く。

 蓉子、へなへなとその場に脱力して、

蓉子「心配させないでよ、もう……」

 小林、リュックを背負い、校門から走り去る。

蓉子「あっ、ちょっと! 待ちなさい!」

 追いかけようとする蓉子。小林の姿はもう見えなくなっている。




○同・職員室(夕)


 散らかっているデスクを片づける蓉子。

 高齢の女性教員がやってきて、

女性教員「水野センセ。病院からお電話がありましたよ」

蓉子「(面喰って)は?」

女性教員「お母様がぎっくり腰で救急車で運ばれたとか」

 蓉子が緊張がとけたように驚く。




○病院・病室(夕)


 ベッドで上半身を起こしている水野君江(50)、腰にコルセット。

 パイス椅子で林檎の皮をむいている蓉子。

蓉子「もう年なんだから無茶しないで」

君江「明日には退院するから心配しなくていいよ。それよりアンタこそどうなの? 最近ろくに連絡もよこさないで」

蓉子「ぼちぼちかな」

君江「前言ってた、ストーカーされてるって話は片づいたの?」

蓉子「それが、まだ……」

君江「いい加減、警察に相談しなさいよ。近頃物騒なんだから」

蓉子「大げさだって。直接は何もされてないし」

君江「それはアンタに彼氏がいないからよ。男の影をかぎつげたら、襲ってくるわよ」

蓉子「大丈夫。心配しないで。襲われたら大声だして助け呼ぶから」

君江「ホント気をつけなさいよ」

蓉子「それより、お母さんに先輩教師として相談したいことがあるんだけど」

君江「なあに」

 蓉子、リンゴの皮むきナイフを見つめ、

蓉子「学校にナイフを持ってくる男の子がいるんだけど、何のために持ってきてるんだと思う? 喧嘩で使うとかって感じでもなかったし」

君江「年頃の男の子はナイフとかに惹かれるもんだし、友達に見せびらかしたかったんじゃない?」

蓉子「そういうタイプの子じゃないのよねぇ」

君江「本人に聞いてみればいいじゃない」

蓉子「聞いたけど、話してくれないのよ」

君江「話してくれるよう信頼関係を築きなさい。気長にね。教師は、忍耐よ」

蓉子「うん、ありがと」

君江「そういえば、さっきアンタの学校の制服をきてた男の子見たわよ。お見舞いにきた んじゃない」

蓉子「ホント? 誰だろう。知ってる生徒かな」




○同・廊下(夕)


 廊下を歩いている蓉子、小林とバッタリ会う。

蓉子「小林……」

 小林、ギョッとして走って逃げだす。

蓉子「小林ー! 廊下は走るなー」

 早歩きで追いかける蓉子。




○同・外・休憩所(夕)


 自販機の取出口にジュースの缶が落ちてくる。

 蓉子が缶を取り出し、小林に手渡す。

蓉子「学校の外だから没収しないよ」

 小林、警戒した様子でジュースを飲む。

蓉子「だれのお見舞いにきたの?」

小林「妹です」

蓉子「病気?」

小林「怪我で入院してます。……知らない男に乱暴されたんです。もう何年も意識が戻りません」

 蓉子、予想外の返答に困惑。

小林「(不気味に笑って)僕がナイフを持ち歩いてる理由教えてあげますよ。もし女性に 乱暴する男性を見つけたら刺してやろうと思ってるからです。妹と同じ目に遭ってほしくないから」

蓉子「(悲しそうな表情で)そんなことしちゃダメ……」

小林「じゃあもし目の前でそういうことが起こったらどうしたらいいんですか? 黙ってみてろっていうんですか。僕の腕力じゃ大人には勝てません」

蓉子「そういう時は近くの大人に助けを求めればいいのよ」

小林「……近くに誰もいなかったら?」

 言葉につまる蓉子。




○道(夜)


 道を並んで歩いている蓉子と小林。

蓉子「小林の家もこっちの方だったんだ。近所だったんだね」

 小林、暗い表情で歩いている。

小林「先生。僕は、明日もナイフを学校に持っていくと思います。たぶん明日も、明後日も、その先もずっと。没収しないでくれますか?」

蓉子「ダメ。没収する。理由を聞いたらなおさら。小林に犯罪者になってほしくない」

小林「……先生なら分かってくれると思ったのに」

蓉子「ごめんなさい。私は教師だから」

 2人が分かれ道に差し掛かる。

蓉子「私、こっちだから。また明日、小林」

小林「……」

 蓉子、道を曲がり、小林は真っ直ぐ歩いていく、

 蓉子が真っ直ぐ歩いていると、電柱の陰に男が立っている。

男「なあ先生。教師が生徒と交際するのは校則違反じゃないのか?」

 男が狂気じみた顔で蓉子をにらむ。

蓉子「あなた、いつものストーカー?」

男「あんなガキより、俺のほうがいいだろ?」

 男が早歩きで蓉子に近づいてくる。

 頬をひきつらせ走って逃げだす蓉子。

 男に追いつかれ、道路に押し倒される。

蓉子「ひぃっ……」

 口から悲鳴がもれそうになるのを自分の手で押さえる蓉子、涙目。

男「悲鳴も可愛いねぇ」

蓉子「(涙目ながら真剣に)静かにして!」

男「(不審に思って)はあ……?」

 男が背後を振り返ると、小林が立っている。

 小林は血走った目で男をにらみつけている。その手にはアーミーナイフ。

蓉子「ダメ! 来ないで!」

 蓉子、叫ぶ。




/了




最近、話の構成がしっかりできるようになってきた気がします。


先生や他の生徒さんにもよく褒められます。


タイトルは分かる人は分かると思うんですが、BUMPのナイフの歌詞を少し変えたものです。BUMPのナイフから思いついた内容ではなく、アニメ:スタードライバーの スガタくんが常にナイフをバッグに忍ばせてる、ってところから連想しました。




さて内容。


今回の一番の反省点は、あまり課題『古傷』の趣旨に沿っていなかった、というところですね。


一応、『どうして小林は学校にナイフを持ってきているのか?→過去に何かあったんじゃないか?その理由は?』ってのが古傷のつもりなんですが、


病院で、口で全部説明しちゃってるのであんまり課題の趣旨にはそえてません。




生徒の意見:


・先生が生徒を呼び捨てするのに違和感。そういう性格か?


→あんまり気にしてなかったがまあ、そうかも


・病院でのリンゴむきナイフの小道具の使い方がうまい


→あざす。もっと話にからめてたらもっと良かったよねえ…




先生の意見:


・偶然が2つあるのはいかがなものか? 展開をつめこみすぎたか?


・小林と病院で会う(1つめの偶然)、妹が入院している(2つめ)


→10分シナリオで話を進めるために、展開を急ぎすぎた感はありますなー。




・詰め込みすぎの原因は、メインの話が2つあること。


・先生はストーカーに悩み(メイン1)、小林はナイフを持ち歩いているのは何故か(メイン2)、これを組み合わせた構成はいいが、10分のシナリオには多すぎる


・片方でいいのではないか?


→おっしゃる通りです。




今回は特に全力で話の構成をつくりました。


先に続く展開のアンチ・アンチで話を書き(女子トイレのシーンとか母とストーカーの話するとことかね)、シーンのつなぎもほぼ全部しりとり法で書いています。


構成に関してはこれがぼくの全力です。


キャラが少しよわいのは相変わらずぼくの弱点ですね。


シリアスな話ですが、


オチは『小林おまえそんな理由でナイフもってたんかwアホかw』っていう感じのギャグオチにしてもよかったかなあと思っています。






2016/10/9引導

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