『大雨のなかの水槽』(課題:雨)(2016/9/21)

『大雨のなかの水槽』


人物


雨宮孝太郎(16)高校生

丸山遥香(16)雨宮の同級生

男子生徒




〇田舎の道(夕)

 錆びついたバス停。

 時刻表には3時間に1本の発車時刻。

 道路の両脇が田んぼになっている。

 辺り一面田んぼで、周囲に屋根のある建物はない。

 ポツ、ポツ……と雨が降り始める。




〇田舎の道(夕)


 激しい大雨が降っている。

 道の途中にある電話ボックスに、大粒の雨が叩きつけられている。




〇同・電話ボックス内(夕)


 雨宮孝太郎(16)がタオルで髪を拭いている。雨宮はズブ濡れ。

 濡れたカッターシャツが肌に張りついている。

 外は激しい雨。電話ボックスの壁を洗い流すみたいに雨水が滑り落ちている。

雨宮「いきなり降ってくるんだもんなぁ……」

 リュックサックからノートを取りだす。

 ノートのページを開くと、几帳面な字で授業の板書がびっしり。

雨宮「(ホッとして)よかった、濡れてない」

 電話ボックスの扉が開き、ズブ濡れの丸山遥香(16)が飛び込んでくる。

遥香「もーっ。サイアク。ぐしょぐしょだし」

雨宮「あーッ!」

 床に落ちているノートを、遥香のローファが踏んでいる。

遥香「誰かと思ったら、雨宮じゃん」

雨宮「ノートから足どけてよ」

遥香「あっ、ごっめーん」

 雨宮、遥香を突き飛ばしてノートを拾う。

 ノートを抱いて、遥香をにらみつける。

遥香「狭いんだから暴れないでよ!」

雨宮「狭いのは当たり前でしょ? なんで入ってきたの」

遥香「この大雨のなか、アタシに出てけっていうの? 信じらんない。このへん雨除けになる場所まったくないんだよ?」

雨宮「だからってフツー中に人がいる電話ボックスに入ってくる?」

遥香「前見えなくなるくらいの大雨だったから余裕なかったの。文句ある?」

 遥香、強気で息むと、雨宮、目をそらす。

 遥香、ブラウスが濡れてブラジャーの色が透けている。

遥香「(ニヤニヤして)アンタ、もしかして照れてんの? キモ……」

雨宮「(カアッとなって)出てけよ! そっちが後から入ってきたんだろ」

遥香「アタシだってそうしたいけど、この雨じゃねぇ……。傘もってないの? アンタ、折り畳み傘とかカバンに入れてそうなタイプだけど」

雨宮「持ってたらこんなとこいない」

遥香「それもそうか。じゃタオル貸して」

雨宮「(露骨に嫌そうな顔で)……」

遥香「えっ? なにアンタ潔癖症? 風邪ひいちゃうから貸してよ」

 遥香、強引に雨宮からリュックを奪いとる。

遥香「タオル借りるね。……って、アンタ折り畳み傘入ってんじゃん!」

 遥香、リュックから傘を取りだす。

雨宮「あっ……」

 遥香、電話ボックスの扉に手をかけ、

遥香「じゃ、この傘でアタシ帰らせてもらうから。アタシがいなかったら傘のこと気づかなかったし、借りる権利あるよね? だーいじょうぶ。明日返すから」

 遥香、ボックスから手だけだして折り畳み傘を開く。

 傘には大量の穴が空いていてボロボロ。

遥香「なにこれ? カッターで切られたアト? そういやアンタいじめられてたっけ」

雨宮「(バツが悪そうに)……」

遥香「雨やむまで待つしかないかぁ~……」

 タオルで髪をガシガシと拭く遥香。

遥香「ここの電話ボックスってなんで撤去されないんだろうね。イマドキ使う人いなくない? アタシも使ったことないし……」

雨宮「……」

遥香「無視すんな。……もういい。グループラインにアンタの悪口かいてやるから」

 スマフォを操作する遥香、苦い顔。

遥香「嘘でしょ? 電波ないんだけど……。って、アンタ何やってんの?」

 黙々と単語帳をめくっている雨宮。

遥香「なんでこの状況で勉強してるの? バカじゃないの?」

雨宮「(ボソッと)バカなのはテストの点わるいそっちでしょ」

遥香「ハア~? 聞こえてるんですけど。うっざ。そんなだからイジメられんじゃん」

 雨宮、無視して単語帳めくる。

遥香「ハア~。雨、いつになったら止むんだろ。夜になったらお腹へって餓死しちゃうって……。あ、言っとくけど、これ独り言だから」

 雨宮、表情を変えずに単語帳をめくり続ける。

 グウ、とお腹が鳴る音。

遥香「(バカにした調子で笑いをこらえて)なに今の? お腹へってんの?」

 雨宮、恥ずかしさに耐えるような表情。

遥香「アタシ、お菓子持ってるからあげよっか?」

 遥香、キットカットを差しだす。

 雨宮、困惑しながらも、受け取る。

雨宮「……ありがと」

遥香「お礼は宿題写させてくれればいーから」

 雨宮、キットカットをかじりながら、

雨宮「……宿題は自分でやらなきゃダメでしょ」

遥香「は? エラソーにムカつくんだけど? じゃあ返してよ」

 遥香、雨宮の手から食べかけのキットカットを取り上げようとする。

 必死に抵抗する雨宮。

 揉みくちゃになって、壁に押しつけられる雨宮。

遥香「力なさすぎ。それでもオトコ?」

 キッとにらみつける雨宮。

 電話ボックスの外で、空がピカッと光る。

 雷が落ちる激しい音。

遥香「キャアッ!」

 遥香、雨宮に抱きつく。

 雨宮、とまどって押しのけようとする。

雨宮「ちょ、ちょっと……!」

 空が白く光って、雷が落ちる。

遥香「キャ~ッ!」

 遥香、目をつぶり、耳を押さえ、頭から雨宮にもたれかかってくる。

 雨宮、まごまごしながら、遥香から目をそらしている。

 密着したまま固まる2人。

 雷の音が小さくなっていき、鳴りやむ。

 遥香、雨宮から突き飛ばすみたいに離れる。

 照れくさそうに遥香を見る雨宮。

 遥香、不敵に笑って、

遥香「なに勘違いしてんの? 演技に決まってんじゃん。この年で雷怖いとかないから」

雨宮「(驚いた表情で)……」

遥香「(バカにするような調子で)ちょっとからかっただけなのに、耳まっ赤じゃん! どんだけ。童貞丸だしじゃん。ウケるんだけど」

 雨宮、ムッとする。

 電話ボックスの外の空が白んでくる。

 雨足が弱まり、雨が切れ切れになる。

遥香「雨やんだじゃん。やっと解放される。アンタと密室に2人きりホントサイアクだった」

 ボックスから出て行こうとする遥香。

 ゴロゴロと雷の音が鳴り始め、激しい落雷が轟く。

遥香「キャ~ッ!」

 開きかけたボックスの扉を閉じ、雨宮に抱きつく遥香。

 驚き、困惑する雨宮。

遥香「なんで晴れてんのに雷落ちんの!?」

 遠くで雷が鳴り、落ちる音。

遥香「キャーッ! キャーッ! ウソでしょぉ~!? 晴れてるじゃん! キャーッ!」

 甲高い声で叫んで、雨宮にしがみついて震える遥香。

雨宮「……雨やんだし帰りたいんだけど」

遥香「ハア!? バカじゃないの? 雷鳴ってんのよ。危ないからここにいて!」

 雨宮の服の袖を力いっぱい握る遥香。

 遥香、涙目。

 雨宮、プッと噴きだして笑う。

遥香「ハア!? なに笑ってんの!?」

雨宮「いや……フフッ」

 遥香、顔を真っ赤にして、

遥香「今日のこと絶対だれにも言うなよ! 言ったらイジメるから!」

 雨宮、キョトンとする。

雨宮「……うん、分かった」

 遥香、疑り深そうに雨宮を見つめる。




〇高校・校門


 登校している生徒たち。

 1人で歩いている雨宮、背後から男子生徒にぶつかられる。

男子生徒「(舌打ちし)邪魔なんだよ」

 雨宮、ずれたメガネを直して、

雨宮「……」

 男子生徒、他の生徒と笑いながら去っていく。

 遥香が通りかかって、

遥香「……おはよー」

雨宮「(微笑して)おはよう」


/了




フォーンブースという映画に感銘を受けて書きました。

でもたぶん似てません。

(電話ボックス内が舞台というのは同じ)


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『仲の悪い2人が、大雨で電話ボックスに2人きりで雨宿りすることになって…』

というのが今回のお話です。




かなり気に入ってるワンシチュエーションモノ。

発想の元は、スタードライバー輝きのタクトというアニメのED。

主人公タクトとヒロインワコが突然の雨で2人で電話ボックスに駆け込む、

という短いシーンがEDにあって、


それの絵面が非常に気にいったので使ってみました。

(そのあとフォーンブースをみて勉強しました)


ワンシチュエーションモノというのは、

柱(〇電話ボックス内)が1つの作品のことです。


ぼくの得意とするお笑いのコントが、

まさにワンシチュエーションモノであることが多く、


コントはアイデアが優れているので、影響を受けていると思います。

※ぼくが影響を受けているお笑いグループ→東京03、ロッチ、キングオブコメディ




ちょっと雑談になるのですが…。

東京03のコントをひたすら分析していたときに、気づいたことで、

ワンシチュエーションコントには"話の転換点"というものがあると思うのです。

そのシチュエーションの前提を壊し、

話を次のステージに進めるというような"新しい発見"のことです。




分かりにくいと思うので、今回のぼくの作品の例でいうと、

まず1つ目の転換点として、

『カバンから折り畳み傘がでてくる』というものがあります。

これはこの話の前提が『大雨で外に出られない状況で、高校生の男女が1つの電話ボックスで嫌々一緒に過ごしている』で、折り畳み傘の存在はこの前提を破壊する"発見"なんです。


しかし、この転換点というのは、多くのお笑いのコントでもそうなのですが、

結局は話の前提を破壊できないことになるのです。

話の前提が破壊されたら、そこで話が終わってしまうので。


今回の場合は、折り畳み傘はボロボロで使用不可能、というオチがついてきます。

このようにワンシチュエーションコメディというのは、


話の前提を破壊する前フリで期待をあおり、結局それがダメになって、話を長引かせるというのを延々と繰り返すのが基本となると思います。




ちなみにこの話の最後の"転換点"は、

『外が晴れて、電話ボックスから出られるようになったのに、晴れたまま雷が鳴っているせいで電話ボックスから出られない!』

というものに設定しました。


これは話の前提である『晴れたら電話ボックスから出る』という前提のアンチとして設定しました。

最終的には、前提をひっくり返すのがオチのポイントだと思います。


先生のアドバイス

・最後、場面転換はしないほうがよかった

 >>それは確かにぼくもそう思うんですよね…

 >>場面を転換させずにオチをつけるのは難しかった


・男女の組み合わせは、ギャル女&いじめられっこオタクが最良か?

 >>ぼくの思いついた中では最良でしたが、もっといいのはあるかも?


・もっと派手なことが起こってもいいかも? ボックスにヘビがいた! とかそういうパニックモノの手法とか?


生徒さんの意見

・オチはこの2人が電話ボックスにいるのを、通りかかった他の生徒が発見するのはどうか?

  >>盲点でした。素晴らしい発想だと思います。改稿する予定があったらパクらせていただきます。


・オチ(本当に雷が怖い)が読めるから予想を超えてこない

  >>たしかにもっとドンデン返しのオチを期待されるかもしれない

  >>でも甘酸っぱい感じでかいたので、電話ボックスが横転して出られない!とかボックス内にヘビが!とかみたいな派手なのは避けてしまいました


・密室に男女というシチュエーションでもっとエッチな展開を期待した

  >>エロは透けブラくらいしかないですね。そこ期待されるかあ~(笑)


あとはタイトルがイマイチですね。

いい単語が思いつきませんでした。

ホントは『別の魚を同じ水槽で同時に飼う』みたいな単語を暗喩でタイトルにしたかったのですが…。※混飼という単語しかヒットせず、音がダサいので見送りました。


2016/9/21引導


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