『彼岸の蝉』(課題:誘惑)2016/6/1

要点:

誘惑するもの、されるもの。

誘惑される側の葛藤。

『どういう事情』で『なに』を誘惑するのか?


1か月ぶりに書きました。

※実は倍の40枚書いちゃいました。


『彼岸の蝉』


人物

芥川虎之助(27)フリーター

谷崎順平(25)蒼海社の編集者

夏目賢石(27)芥川の友人

佐藤春樹(32)編集者

服部達也(30)借金取り

夏目花江(51)夏目の母


〇高層ビル・外観


〇同・オフィス

 蒼海社ノベルス編集部のプレート。

 デスクで仕事する編集者たち。


〇同・打ち合わせブース

 谷崎順平(25)が真剣な表情で原稿用紙の束を読んでいる。

 芥川虎之助(27)が落ち着かない様子で、湯呑みの茶を何度も飲む動作をする。湯呑みはカラッポ。

 芥川の首には『GUEST』の名札。

 谷崎、顔をあげて原稿の端をテーブルでそろえる。

谷崎「(嬉しそうに)一体どうしたんですか? 今までの作品に比べて、見違えるほど面白いですよ。続きは?」

芥川「ありません」

谷崎「まだですか。それならぜひ相談に乗ら せてください。最後まで書き上げれば、賞を狙えますよ。一緒に傑作を作りましょう!」

芥川「ぼくには、続きを書けません」

谷崎「あとラスト10ページってところじゃないですか。ぼくも手伝いますから」

芥川「ちがうんです。(ためて)……実はこの小説は友人が書いたものなんです」

 驚く谷崎。

谷崎「どうして友人の小説を、ぼくに?」

芥川「それが彼の遺言だったんです」

谷崎「いつ、お亡くなりになったんですか?」

芥川「2週間前です。だますような真似してスミマセンでした。友人が書いたなんて最初に言ったら、見ていただけないと思って」

谷崎「それで、遺言にはなんて? 可能なら、出版したいということですか?」

 便箋をテーブルにそっと差し出す芥川。

芥川「これ、遺言状です」

谷崎「読んでも?」

芥川「どうぞ」

 便箋を目で読みながら、眉間にしわを寄せる谷崎。

谷崎「残念ながら、この条件ではデビューは難しいですね」

芥川「やはり、そうですか」

谷崎「特にこの、『もしこの作品『彼岸の蝉』が出版可能なら、一字一句すべて原文ままにして欲しい。変更や追加は絶対に認めない』という部分が問題ですね。まさか、あの状態で完結というわけではないですよね?」

芥川「未完結だと思います。医者に聞かされ ていた余命より、ずっと早く亡くなってしまったので」

谷崎「そうですかあー……。実に残念だ。大変に惜しい」

芥川「ぼくもそう思います」

 席から立ち上がる芥川。

芥川「今日はありがとうございました。お時 間おかけしました」

 神妙な表情で考え込む谷崎。

 ブースのドアノブに手をかける芥川。

谷崎「ちょっと待ってください! やっぱり見捨てるには惜しい」

 手が止まる芥川。

谷崎「1つ聞かせてください。ラストの10ページ、芥川先生が書くことは可能ですか?」

芥川「彼の作品を、ぼくに奪えと言うんですか?」

谷崎「共著にすればいいんですよ」

芥川「遺言を無視しろと?」

谷崎「その遺言状、芥川先生宛てでしたよね? 彼のご家族の方には見せましたか?」

芥川「いえ……」

 ニヤリと笑う谷崎。

谷崎「ならなんの問題もありませんよ」

芥川「でも……」

 ため息をつく谷崎。

谷崎「いいですか、芥川先生。あなたはデビュー作以降、全然売れてません。今日の持ち込みだってハッキリ言って期待してなかった。この『彼岸の蝉』が先生の名前で出版されて売れれば一発逆転が可能です。このこと分かりますよね?」

 唇をかむ芥川。

谷崎「芥川先生、生活ギリギリでしょ? バイトは週何時間いれてるんですか? このままでいいんですか?」

芥川「ぼくの生活は関係ないでしょう」

谷崎「誰も読んでない遺言状を律儀に守る必要がどこにあるんですか。それともプロの作家としてのプライドがそれを許しませんか?」

芥川「帰ります」

 芥川、ブースから出てゆき、乱暴にドアが閉められる。

 ブースに残された谷崎、余裕そうに微笑む。


〇アパート・芥川の部屋(夜)

 芥川が玄関にやってくる。

 玄関ドアの郵便受けに大量の封筒とチラシが突き出ている。

 クツを脱ごうとして、白い封筒を蹴っ飛ばす。

 白い封筒には手書きの文字で『芥川虎之助様』。裏面を見ると、差出人に『夏目賢石』。

 芥川、ハッとする。

  ×   ×   ×

 開封された封筒とハサミがテーブルに置かれている。

 手紙の文字を目で追う芥川。

夏目N「遺言状に書き忘れたことがあるので追記する。もし、『彼岸の蝉』が未完結のまま僕が死んだら、原稿は燃やして欲しい。きみ親友、夏目より」


〇アパート・庭

 燃える原稿用紙の束。

 炎にまかれる原稿には『彼岸の蝉』の表紙のタイトルの文字が、あぶられて身をよじる。

 原稿のたき火に手を合わせる芥川。

  ×   ×   ×

 灰の山にバケツの水をかける芥川。

 柄物のスーツを着た服部達也(30)がアパートの敷地に入ってくる。

 服部はチンピラのような見た目。

 目が合いそうになって目を背ける芥川。


〇アパート・廊下

 芥川の表札のドアを乱暴にノックする服部。

服部「すみませえん。芥川さん、借金の取り立てにきましたよう。もしもーし?」

 その様子を壁に隠れて遠くから見ている芥川、顔面蒼白。

芥川M「借金? なんのことだ?」

服部「今日はもう帰りますがねえ、返しても らうまでは毎日きますからねえ」

 ドアを乱暴に蹴り、去っていく服部。

 壁の裏に隠れて固まる芥川。


〇同・芥川の部屋

 玄関で書類を持って青ざめる芥川。

芥川M「夏目のやつ、借金返済せずに死んだのか」

 書類には『金銭貸借契約書』。借主には夏目賢石、連帯保証人には芥川虎之助、とある。

芥川M「夏目の親に相談するか? でも、葬 式のときに初めて会ったきりだ……」

 書類を握りしめる手が震える。


〇アパート・廊下

 芥川の表札のドアが、何か所もボコボコに凹んでいる。。

 ドアの前にやってくる服部。


〇同・芥川の部屋

 ドアが乱暴に叩かれる音。

服部の声「芥川さん、いるんでしょう? 居留守なんて無駄ですよ。ドアをあけてくれませんかあ?」

 頭から布団をかぶって耳をふさぐ芥川。

 興奮した様子で息を殺している。

芥川M「なんで、オレがこんな目に……。クソ! 夏目のせいだ」

服部の声「また明日もきますからねえ」

 外が静かになって、布団からはいだす芥川、頬がゲッソリやせている。

 水道水をコップに注ぎ、飲もうとしたとき、玄関チャイムが鳴る。

 むせる芥川。

 泣きそうな顔でおそるおそるドアの小窓をのぞくと、谷崎が立っている。


〇喫茶店

 テーブル席に座る芥川と谷崎。

谷崎「生活、苦労されてるんですね」

 膝の上でギュッと拳を握りしめる芥川。

谷崎「どうですか、前の話、気は変わりませんか?」

 握りしめる拳の力がギュウと強くなり、涙をポロポロとこぼす芥川。

谷崎「どうしたんですか?」

芥川「実は、燃やしちゃったんです、原稿。遺言があの後でてきて……」

 封筒を取りだして、谷崎がほくそ笑む。

谷崎「これなんだか分かります?」

 封筒から原稿用紙のコピーの束を取りだす谷崎。

 表紙タイトルには、『彼岸の蝉』。

芥川「いつのまにコピーなんて……」

谷崎「協力、いただけますね?」

芥川「……」

谷崎「協力していただけるなら、前金をお貸 ししますよ。借金はいくらですか?」

芥川「スマン、夏目」

   俯き、申し訳なさそうな顔をする芥川。


/了


20枚シナリオ版。

先生の講評などは、今夜追記します。


※6/2追記

発表会のみんなの意見、先生の意見抜粋


・芥川がいい人すぎる。夏目の遺言に全部いいなり。バカなんじゃないの?

(遺言を守る理由がない)、登場人物の感情が追えないのはダメ

 →解決法:芥川をかばって夏目が死んでしまった、等の芥川が遺言を守らなくてはならない枷を加える。だから夏目は裏切れない!というような


・芥川がもっと悩むほうがいい

 →これはぼくのシナリオのスタンスに対する改善点なんですが、迷ってるシーンは退屈なのですぐに主人公が意思決定をすることが多いのです。今回も、借金のせいで夏目を裏切ることを決意したが、そのときにはもう小説の原稿は燃やした後だった!という手遅れ感を重視した結果ですね


・どうしてすぐ小説燃やしちゃうのか? 燃やすかどうか迷え!

 →上記に同じ。反省点


総評:

面白いという評価は頂いたが、

展開を減らす(具体的には柱を減らす)

1シーンにこだわってかいてほしいとのこと。


2015/6/1引導

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