第13話 第八幕 セラエノの邂逅(2)

「それはそうかも知れませんね。あなたの立

場なら当然のことです。」


 火野将兵はすでに達観している。旧支配者

たちが人類の敵である、という二者択一的な

発想は仕方がない。それを説得できる要素も

ない。ただ、あるべきものをあるべきかたち

で、ということしかないからだ。


 将兵にしてもクトゥグアの封印が本当に解

かれたのならどういった事態になるのか想像

もつかない。地球上の全てを焼き尽くす可能

性も高い。なのに、なぜ火の民はクトゥグア

の封印を解くことが使命だと考えているのか

長老たちに聞いても誰も納得できる回答を持

っていなかった。


「そういうものだ。先祖代々、そうやってき

たのだ。疑問を持つことは、畏れ多いことだ

と弁えろ。」


 と言われただけだった。誰も封印は解けな

いし解く方法も見つけられないのだ。ずっと

そのまま、それでいいのではないか?とすら

思っていた。ただ、一応は使命として課せら

れていることなので将兵も封印を解く方法を

探しているだけだった。


「私は人類に敵対しようとは思っていません

が、立場によってはそう思われても仕方がな

いとも思っています。クトゥグアの封印を解

くことが火の民の悲願であり私の使命でもあ

りますが、達成できないのではないか、とも

思っているのは間違いありません。」


「それなのに、君はここにやって来たという

のかい?」


 マーク=シュリュズベリィは何だか少し拍

子抜けしてしまった。顔を少し赤らめてマリ

ア=ディレーシアは出て行ってしまったので

マークと将兵り二人きりで話を続けているが

淡々と話す将兵に他の旧支配者たちの眷属と

は別のものを感じ始めていた。火の民とは初

めて接触したので火の民が特別なのか、将兵

がその中でも特別なのかは判断が付かなかっ

た。


「そうですね。私の使命を果たすことは、確

かにクトゥグアの封印を解くことであり、そ

の結果人類が滅びてしまう可能性もあるでし

ょう。ただ、自由に動き回っている方もいら

っしゃいますので、その動きをけん制するた

め、敢て封印を解くことも必要な時があるの

ではないか、とも思っています。」


 詭弁だった。一人の旧支配者だけでも危険

極まりないのに、それと敵対させるために同

じく危険極まりないもう一人を自由にさせる

ことなどあり得ない。


「それはダメだ。ここで僕が封印されている

旧支配者や外なる神の封印を解く方法を探し

ているのは逆にそれを見つければ万が一封印

が解かれても再度人類で封印できるのではな

いか、と思ってやってることだからね。ナイ

アルラトホテップを封印する方法もできれば

見つけたいくらいだ。」


「ナイ神父を封印?できるのですか、そんな

ことが?」


「いや、全く手掛かりはない。彼については

言及されている物はいくつもあるが、封印さ

れていないこともあって、封印する方法が旧

神にもなかったのではないか、とすら思えて

くる。だとしたら、人類には到底無理な話だ

ね。」


「無理でしょうね、多分。神父は自由に行動

させる、というのが旧神が定めてルールのよ

うな気がします。」


「ルールね。それにしても、そのナイ神父は

君がクトゥグアの封印を解く方法を探してい

ることを当然知っていて、それも下手をした

ら自らと敵対する存在の封印が解かれるかも

知れないのに君をここに連れてきたことにな

るけど。」


「そうですね。神父のお考えは私のような者

には全く理解できませんが、クトゥルーやツ

ァトゥグアの時と同様に封印がもう少しで解

かれるところまで行って失敗することか肝要

なのではないでしょうか。」


 旧支配者たちの封印が解かれる寸前で失敗

し、その悔しがる気持ちがある一定のライン

を超えるとアザトースの封印が解かれる、と

いう話だ。


「封印を解く方法を探させて最後の最後に邪

魔をする、というようなことなのかな。」


「そうかもしれません。ツフトゥグアのよう

に現代の地球では不可能な方法かもしれませ

んし。但し、ヨグ=ソトースのように時空が

超えられる存在が居るので、完全に不可能と

はいいきれませんが。」


「そうだね。で、君は結局クトゥグアの封印

解く方法をここで探す、というのだね。」


「申し訳ありません、そのつもりでここに来

ました。但し、どうも私では読み解けない書

物がほとんどのようなので、お力を貸してい

ただけないかと。」


「だから、それは無理だと言っているじゃな

いか。」


 そこにいつの間にか戻っていたマリアが割

り込んできた。


「そう邪険にすることもないわ。マーク、あ

なたもクトゥグアの封印を解く方法は探して

いるのでしょう?もちろんあなたは彼とは違

って、その方法を知ることによって逆に封印

をするため、ということだけれど。」


「そうはそうなんだが。」


「だったら一緒に探して、貴方は封印するた

め、彼は封印解くためにその書物を使う、っ

てことでしょ?」


「う~ん、何か違うような気がするが。」


 何かマリアのおかげで助けてもらえそうだ

った。彼女は彼女で正直何を考えているのか

将兵には判らなかったが。




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