第12話 第八幕 セラエノの邂逅

 翌日、ナイ神父はいきなり火野将兵の部屋

に現れた。そして、気が付けはセラエノ大図

書館に居た。風間真知子は連れて行く余裕が

無かった。


「ここで、しばらくは調査するがいい。ここ

にはどこかに人間もいるはずだ。その者たち

と一緒でもいいし、お前が勝手に調べてもい

いだろう。また、迎えに来てやる。」


「迎えに来られるタイミングは?」


「我の都合だ。」


 そういうとナイ神父は漆黒の闇を作りその

中へと消えていった。


「さて、どうしたものか。」


 とりあえず、人間か円錐状の司書を探さな

ければ何が何処にあるのか、まったく判らな

い。少し周りを見てみたが何の気配もなかっ

た。


「仕方ない、中に入って探すしかないな。」


 火野将兵は中へと入っていった。建物全体

は把握できないほど大きい。中に一体どれほ

どの司書たちが行き来しているのか、偶然見

つけられる確率は不明だった。


 通路や並んでいる扉には何か書いてあるが

将兵には読めなかった。これは、本を探すの

も大変だ。そもそも見つけても読めなければ

意味がない。将兵は星の智慧派に入って相当

古代文字などを勉強したが、この図書館に掲

げられているものは全く読めなかった。


「これは人間を探した方がよさそうだな。」


 確かマーク=シュリュズベリィとアーカム

財団を追い払われたマリア=ティレーシアの

二人は少なくともいるはずだ。二人が協力し

てくれるとも限らない、というか、むしろ敵

対する可能性の方が高かったが、自分だけで

はどうしようもなかったので仕方ない。


 将兵はできるだけ人間のサイズに合わして

ある通路を進んだ。通路の巨大なところもあ

るが、そのあたりの本は本のサイズも巨大だ

ったので、棚から取り出す術さえない。将兵

の背丈よりも大きい本が並んでいるところも

あった。


 やみくもに歩いていると、どこからか声が

聞こえてきた。人間の声だ。将兵はその声の

する方へと向かった。


「なぜ私がこんな目に合わなければならない

の。ここの生活は地獄だわ。」


「それは、何度も話しただろう。君がとんで

もない事態を起こしてしまった、その所為だ

と。」


「別にアザトースが高校生と入れ替わったく

らい、どおってことないじゃない。封印が解

かれた訳でもないし。そもそも私には封印が

解けようが解かれまいが何の関心もないわ。」


 男女二人が口喧嘩をしているようだ。


「もしかしたら、それで宇宙が滅んでしまっ

かも知れないんだぞ。」


「だから、何だっていうのよ。私の思い通り

に行かない宇宙なんて消滅でもなんでもすれ

ばいいんだわ。」


 単純に言葉を聞いていると飛んでもなく喧

嘩しているようだが、どうもその口調は甘え

ているかのように聞こえるので、女性が男性

を困らせるために態とそんな態度を取ってい

るようだ。所謂痴話げんかってやつかも知れ

ない。そんな間に入るのは気が引けたのだが

将兵は仕方なしに割り込んだ。


「あの、すいません。ここに人間はあなたた

ちしか居ないのでしょうか?」


 もし、居るのなら、その人たちを探そうと

思ったのだ。


「あ、えっ、君はいったい誰だ?どうやって

ここに?」


「ああ、私は火野将兵というものです。ナイ

神父に連れてこられたのですが、どこをどう

探せば目的のものが見つかるのか、全く見当

も行かなかったものですから、誰かいらっし

ゃらないかと探していたのです。」


「ナイ神父ってナイアルラトホテップその人

じゃないか。君は彼の何なんだ?」


「私は神父の部下、といったところでしょう

か。」


「すると、星の智慧派か何かの?」


「そうです、そうです。今は星の智慧派に所

属しています。」


「今は?」


 火野将兵は、しまった、という顔をした。

色々と話さないと協力は得られないのだろう

が素直にどこまで話をするべきか。


「ああ、その前は警備会社に勤めていたもの

ですから。」


「それで、今は星の智慧派だと。」


「はい。あなたはマークさんですか?」


「僕の名前を知っているんだね。」


「神父からセラエノに居るのはマーク=シュ

リュズベリィさんとマリア=ディレーシアさ

んのお二人だと伺ってきました。」


 二人が顔を見合わせる。


「火野将兵、という名前は聞き覚えがあるな

確かに星の智慧派に所属しているはずだね。

あと、風間真知子とかいう子と二人でいつも

活動している、と聞いていたが。」


「今回、風間さんとは別行動になっています。

私一人がここに連れて来られたのです。」


 それは事実だったから、素直に答えた。


「それと、僕の記憶に間違いがなければ、火

野将兵という名前は火の民だったんじゃない

かな。火の民の火野君と風の民の風間さんが

星の智慧派でペアで活動している、と僕の頭

にはインプットされているよ。」


 すべてはお見通しの様だ。隠しても仕方な

い。


「そうです。私は火の民であり、星の智慧派

に所属している者です。」


「その君に僕が手助けをするとでも?」


 やぱり普通は無理な話だろう。お互い敵対

する陣営に属しているのだから。


「君があくまで人類にとって敵対する人物な

ら当然だか排除しなければならない。」


 少しぶっそうな話になってきた。






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