第14話 第八幕 セラエノの邂逅(3)

 マリアは辟易していた。マークと二人きり

というのも我慢ならなかった。確かにマーク

は魅力的な男性ではあったが、マリアが望む

ギラギラと野望に満ちた男ではなかったから

だ。いい人だとは思うが恋愛対象ではない。


 不意に現れた火野将兵という青年はマーク

よりも老獪なイメージがあった。それとも、

そのまま外見を受取るとしたらただの無気力

な若者でしかない。


 いずれにしても、セラエノ大図書館から一

刻も早く戻りたかった。それにはマークにし

ても火野にしても目的を達成させることが必

要だった。マークについては少しくらいの成

果では戻らないだろう。だが火野将兵という

青年はクトゥグアの封印を解く方法が見つか

ればすぐに戻るだろう。その時に一緒に戻れ

ばいい。


「確かクトゥグアに関する記述がどこかにあ

ったじゃない?」


「いや、直接クトゥグアについて言及されて

いる書物はほぼ存在しない。1228年にオ

ラウス・ウォルミウスが『ネクロノミコン』

をギリシア語版からラテン語版に翻訳すると

きに元々完全版だと彼が思っていたギリシア

語版がかなり欠落したものだったらしい。そ

の際に落とされた部分にクトゥグアについて

の記述もあったようなんだが、今のところ発

見されていない。もしかしたら、ここにはギ

リシア語版の完全版が保管されているかもし

れないが僕もいまのところ発見していない。

『アル・アジフ』のオリジナルのアラビア語

版は到底望めないとしてもね。」


「『ネクロノミコン』があるのですか?」


 火野将兵は星の智慧派極東支部の事務所で

『ネクロノミコン』を見た。本そのものが何

かの意思を持っているような気がした。あれ

はこの世にあってはいけないものだ。その本

のオリジナルなど、一体どれほどの力を持っ

ているのだろう。将兵には想像もつかなかっ

た。


「いや、まだ見つけていない。『ナコト写本』

や『無名祭祀書』、『屍食経典儀』、『妖蛆

の秘密』あたりは見つけて翻訳したんだが。

ラバン大伯父が一部を翻訳しているから、こ

こに『ネクロノミコン』があることは間違い

ないとは思うんだが。」


 マークがセラエノ大図書館に来た時には、

大伯父であるラバン=シュリュズベリィは亡

くなった後だった。バイアクヘーを召喚する

タイミングが合わなかったのだ。


「だったら、まずは皆で『ネクロノミコン』

を探し出すことね。」


 いつの間にかマリアが全てを仕切りだして

いた。



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