第5話 第三幕 風の民
東京に戻った火野将兵は早速星の智慧派の
事務所を訪ねた。ナイ神父は不在だったか、
責任者の新城俊彦という極東支部長に挨拶す
るためだった。
控室で新城支部長を待っていると、部屋の
隅が黒く淀んでいった。これは一度経験した
ことがあるので判った。ナイ神父だ。
「我が現れても驚かないようになったな。よ
く来た。」
「長老たちの了解も得てきました。これから
お世話になります。今日は新城支部長にご挨
拶をと思い、参上したのですが。」
「新城何某の指示を仰ぐ必要はない。我が指
示するまで好きにしておればよい。クリスト
ファーという者に指示はしておく。あやつも
いつもここに居るとは限らんがな。」
「わかりました。では、そのクリストファー
さんの指示に従って動けばいいのですね。そ
れ以外には?」
「指示がない時は自由勝手にするがよい。教
団の資料は全て閲覧できるよう手配をしてお
く。」
ナイ神父の申し出は、未だ将兵には理解で
きなかったが考えても仕方ないので従うだけ
だった。
「あと、お前に一人助手を付けてやろう。目
的はお前と同じようなものなので上手く立ち
回ればいい結果が得られるであろう。」
助手とはいったい何者だろうか。監視役、
といったところだろうと思ったが、それもま
た断ることはできないことだった。
小さな部屋を与えられて、そこで待ってい
るとドアがノックされた。
「どうぞ。」
入ってきたのは若い、多分将兵よりも若そ
うな女性だった。
「神父からお聞きになっておられると思いま
すが助手として着かせていただく風間真知子
といいます。よろしくお願いします。」
「火野将兵です。よろしく。風間さん、お若
いのですね。もっと年配の男性が来られると
思っていました。」
「私ではご不満ですか?」
「いえ、少し驚いただけです。活動の中身は
神父から?」
「いえ、全くお聞きしていません。火野さん
に着いて行け、と言われただけで。」
「そうなんですね。まあ、僕もただクリスト
ファーさんの指示に従え、と言われているだ
けで具体的には全く何も知らない状態なので
す。」
何も知らない、聞かされていない同士で、
どうしろというのであろうか。
「風間さん、でしたよね。もしかして風の民
とか、まさかね。そんなことは流石に。」
「いえ、風の民ですが。そういう火野さんは
火の民ですよね。」
風の民だと素性をバラしてもいいものなの
か。将兵はナイ神父に言われるまで自分が火
の民だと話した相手はいなかったのだが。
「ええ、まあ、そんな者です。あなたも神父
にスカウトされて?」
「そうです。火の民を星の智慧派に入れたの
だからバランスをとらないと、とか言われて
スカウトされたのですが、正直私はとうの昔
に風の民とは縁を切っています。ほぼ能力も
継いでいませんし、風の民の悲願、とか言わ
れても全く理解できないので。火野さんは火
の民の悲願を成就するために星の智慧派に入
られたのですか?」
「もちろん、そうです。あなたは違うのです
ね。」
「私は単なる就活の一環です。待遇が良さそ
うだったので。」
「そういうものですか。」
「そういうものですよ。」
風の民の現在が火の民とは違うのか、この
子が特別なのか、将兵には判別がつかなかっ
た。
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