第4話 第二幕 甲賀 長老たちの結論

 話を聞いても村人たちは到底信じられない

様子だった。それもそのはず、本来星の智慧

派の指導者たるナイ神父は火の民とは相いれ

ない存在だった。旧支配者たちのうち、誰と

誰が敵対している、というようなことではな

い。それぞれが独立し、他の存在を許さない

至高の支配者たちなのだ。それが唯一共闘し

たのが先の旧神との大戦だった。それ以前も

それ以後も、旧支配者同士が手を組むような

ことはない。各々の眷属を使役することはあ

っても、だ。


 確かにナイアルラトホテップは旧支配者の

一柱ではあるが、そもそもアザトースの眷属

でもある。そのナイアルラトホテップがクト

ゥルーやヨグ=ソトースやハスターなどと一

緒に行動することなどあり得ない。その中で

も火の民が崇めるクトゥグアとは特にあり得

ないのだ。


 その火の民の人間を星の智慧派に誘う?何

かの企みがあるとしか思えなかった。


「それで、将兵、お前はどうしたいのだ。」


 騒然とする場を収めるように長老が問いか

けた。長老自身も特に考えがあるとは見えな

かった。


「僕は星の智慧派に入る許可を得たいと思っ

て村に戻ってきたのです。」


「な、なんと、あの星の智慧派に入ると言う

のか。」


「そうです。まず聞いてください。僕が村を

出た理由はそもそも何でしたか?ここにいら

っしゃる方々は過去に使命を帯びて村を出て

目的を果たせず次の世代を生むために戻って

きた方々ではありませんか。今まで村を出て

使命を果たした人間は一人もいません。村が

出来て千年を超えると伝えられていますが、

誰も成しえていないのです。」


「それは、確かに将兵の言う通りじゃが、そ

れと星の智慧派に入ることと、どう繋がると

言うのじゃ。」


「そこです。我が村が今まで蓄積してきた情

報だけではクトゥグア様の封印を解くどころ

か接触することすら難しいという現実があり

ます。確かに火の民は幾ばくかの力をクトゥ

グア様から分け与えられている特別な民かも

知れません。しかし、クトゥグア様に直接接

触出来た者などいないのです。ところが今回

僕はナイアルラトホテップその人に接触でき

ました。本人から直接誘われたのです。」


「それで喜んでのこのこと入信するとでも言

うのか。」


「いいえ、違います。あくまで星の智慧派に

入る目的は情報収集です。それ以外ではあり

ません。クトゥグア様に接触し封印を解くこ

とが悲願なのです。その手法の一つとしてか

の組織を利用するのです。」


「そう簡単に行くものかの。相手はナイアル

ラトホテップぞ。上手く利用されて終わりで

はないか?」


「その可能性はあります。僕の命は無いかも

知れません。でも、ほかにもっといい方法が

あるでしょうか。かの組織は我が村とは比べ

物にならない情報の宝庫です。そこに見いだ

される物の重要性を鑑みれば自ずと答えは出

るのではありませんか?」


 集まった人々は不安を隠せないようだ。た

だ火の民の内情は正直なところ星の智慧派に

知られても何ら差しさわりがない程度のもの

だったので、こちらの情報が漏れる怖れは少

ないことも事実だった。


 結局、万が一の時の犠牲を覚悟できるのな

ら将兵が星の智慧派に入ることを認めざるを

得ない、というのが長老を含めての結論だっ

た。


 こうして火野将兵は東京へと戻り、ナイ神

父の元、星の智慧派の一員として活動を始め

ることになったのだった。

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