第3話 第二幕 甲賀 火野の将兵

 日野里の若者は18歳になると村を出るこ

とになっている。ある目的・使命があるかだ。

火野将兵も18歳になった月に村を出た。同

じ年に18歳になったのは将兵だけだった。


 将兵の2年前に18歳になって村を出た青

年は普段からの言動をみて村の使命は負わさ

ずに放逐されたことになっている。但し、二

度と村には戻れない。出た本人からすると、

その方が気は楽だろう。使命を負わされない

よう、普段から軽薄なイメージを作っていた、

という風に将兵は思っていた。賢い青年だっ

た。将兵にはそんな技はない。普通に正直に

生活しており、村の秘密を負わされて村を出

ることになったのだ。


 村に生まれた男子として仕方ない、と思っ

ていた。18歳なると、ではなく、生まれた

時から背負わされているのだ。自らの人生を

運命として受け入れているはずだった。


 村を出てすぐ、将兵は東京に向かった。東

京の広尾に村の拠点でもある会社が存在する

からだ。そこは村を出て戻らなかった者が経

営する警備会社だった。とりあえずは、その

会社に就職し都内で活動を始めるたのだった。


 特に目立って活動も出来事もなく、警備会

社の仕事を普通に熟していた将兵は、使命と

は何かを考え始めていた。一族の悲願、村の

掟、使命と言われても、現実社会には合わな

いし元々現実的ではない、と感じ初めていた

のだ。都会には情報が溢れている。その何れ

もが村の使命を否定していた。将兵は無為に

2年近くを過ごしてしまっていた。



 そんな将兵をある外国人が訪ねてきた。浅

黒い風貌からはどこの国の人かが判別付かな

かった。


「火野将兵君だね。」


「そうですが、あなたは?」


「私は星の智慧派のナイという者だ。お主に

興味があって訪ねてきた。」


 星の智慧派の話は村で聞かされていた。敵

対する旧支配者の陣営だと思っている。訪ね

てきたのはその指導者と目されているナイ神

父その人だったのだ。


「ナイ神父様ですね、初めまして。僕に何か

ご用ですか?」


「そう緊張することはない。我はただ興味が

あって訪ねてきた、それだけだ。お前たちの

組織をどうこうしようと思っている訳でもな

い。お前たちはお前たちの使命を全うするよ

う努力すればいいのだ。」


「では、本当に興味本位でお越しになられた

と仰るのですか?」


「さっきから、そう言っておるだろうに。ま

あ信用できない気持ちも判るがな。しかし火

の民と呼ばれるお前たちの中でも群を抜いて

お主の能力は高いようだな。」


「そうなのですか?自分ではよく判りません

が。」


「そうだな。お前たちの主に人間としてはか

なり近いところに居るようだ。面白いな。我

の下で働かないか?」


「そっ、そんなことができるとでも?」


「おう、できようとも。少なくともここに居

るよりお主の使命を達するには都合がいい情

報が集まる可能性は高いぞ。」


 とんでもない提案だった。星の智慧派やダ

ゴン秘密教団とは相いれないと思っていた。

少なくともそう教えられていたし、過去の歴

史は如実に物語っていた。旧支配者同士に連

携などあり得ないのだ。旧神との大戦以後特

に疎遠、というよりも敵対しているはずだ。


 各々の眷属や人間世界での支援組織にして

も同様だった。過去ずっとそうだったのだ。


「私を火の民と知って仰っているのですね。

その真意はどこにあるのですか?」


{真意も何も、お主たちの使命が達しやすく

なるよう手伝いをしてやろうと、ただそれだ

けだ。誓って他意はないないぞ。」


 確かに火の民の組織は脆弱だった。日本国

内に限られていたことも致命的だ。逆に星の

智慧派はアメリが本拠であり、世界中にその

触手を伸ばしているのだ。将兵の使命を達す

るには情報が不可欠だ。その情報の中心と言

える星の智慧派なら様々な稀覯書の閲覧も可

能かも知れない。


「すッ、すぐにはお返事できませんが、少し

だけ考える時間をいただけますか?」


「好きなだけ考えるとよいわ。また折を見て

来る。」


 そう言うとナイ神父は消えてしまった。



 将兵が村に戻った相談事とは星の智慧派に

入ってもいいかどうか、ということだったの

だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る