第2話 第二幕 甲賀

 滋賀県甲賀市。言わずと知れた忍者の里で

ある。忍者や忍術と言われるものは伊賀と並

び江戸時代あたりまで実在していた。但し、

実在の甲賀忍者は今の滋賀県甲賀市や湖南市

に点在しており、一つの纏まった流派や村か

あって活躍していた訳ではない。


 鈴鹿スカイラインを奥へ奥へと進んでいく

と野洲川ダムが左手にあらわれる。一応2車

線ではあるがところどころ落石等でふさがっ

ていて補修工事をしている箇所が多々あるの

で1車線とあまり変わりがない。


 野洲川に沿ってさらに国道477号線を三

重県に向けて進む。途中、右に曲がれる交差

点が現れる。地元の者もめったに使わない分

れ道だ。そこを折れるとすぐに舗装が無くな

ってしまう。凸凹した道なので普通車でも通

行が困難になる。車高の高いRV車が必要だ

ろう。


 奥へ奥へと進む。しばらく進むと途中でそ

の道ですら途切れた。車ではこれ以上は進め

ない。あとは徒歩になる。その先に人が住ん

でいるようには到底見えない獣道だ。1時間

ほど坂道を進む。高低差はそれほどではない

が草をかき分けながらなので半袖でむき出し

になっている腕には無数の傷が出来た。


 やがて獣道が切れた。視界が広がる。集落

だ。5軒はあるだろうか。見える範囲の話な

のでもっと奥にあるのかも知れない。


 人の気配はしない。使われているようにも

見えないが、崩壊している訳ではない。住も

うと思えば住めそうだ。




 火野将兵は2年ぶりに故郷に戻った。


 火野の家はもっと奥にある。村の入口の5

軒は人は住んでいないが人は居る。村に入っ

てくる者を見張っているからだ。


「僕です。火野の将兵です。」


 将兵はそこに居るであろう見張りに向かっ

て声を掛けた。すると人の気配がしなかった

家から二人の老人が出てきた。


「火野の子倅か。長いこと出て行ったキリで

なんぞ困って戻ったか。」


「用燃さん、そう言わんで。折角戻ってきた

と言うのに。村の若いもんは出て行ったキリ

誰も戻らんがな。こうして戻っただけでも火

野の宗次さんは息子をよう育てんさったって

ことじゃろう。」


「真蝶さん、あんたそう言うが戻るのが当た

り前、戻らん奴は追っ手を差し向けででも力

づくで連れ戻さんといかんじゃろうて。」


「いや、用燃さん、村の秘密を持ったまま出

たのは、この将兵だけじゃ。外の奴らは信用

できんかったから何も伝えずただ村から出し

ただけじゃったろうて。もう忘れんさったか

?」


「そうじゃったかのう。まあええわ。それで

今頃戻って何の用があるんじゃ。村の秘密を

持って出たんなら死ぬ覚悟で出たはずじゃ。

何をのこのこと戻ってきた。」


 火野将兵の故郷の村は日野里村と言うが普

通の地図には載らない隠れ里だった。村で生

まれた男子は18歳なると村から出される。

そして、ほとんどが二度と戻らない。それは

ある使命を帯びているからだ。


「ご相談があって戻ったのです。長老はいら

っしゃいますか?」


「長老はもう長いこと村を出たことがない。

居るに決まっておるだろう。話があると言う

なら皆で聞こうかの。」


 三人は連れだって村の一番奥にある長老の

家に向かった。途中数人の村人も騒ぎを聞き

つけて付いてきた。長老の家についた時には

十数人になっていた。


「おお、おお、これは火野の将兵じゃないか

よお戻った。よお戻った。」


 長老は90歳を超えているようだ。但し、

元気が溢れているように見える。実際病気と

いう病気をしたことがなかった。村人は皆病

気とは無縁なのだ。


「長老、ご無沙汰をしております。火野の正

平です。」


 集まった村人の中には将兵の父、宗次もい

た。長老の手前、声はかけないで見ているだ

けだった。


「元気で戻った。なりよりじゃ。宗次さん、

ほれ、将兵じゃ。」


 促されて宗次が前に出てきた。


「将兵、よう戻った。じゃが、お前、何で戻

った?」


 皆が聞きたいことはその一点だ。目的を達

せないまま戻ることは本来許されていなかっ

た。つぎの世代を生むため40歳を超えてか

らしか戻れないのだ。


「長老にご相談があって戻ったのです。」


 少しづつ、村を出てからの事を将兵は語り

始めた。


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