能力でも体質でもない
「どう? 思い当たる節はあった?」
彼女は質問してる風を装ってはいるが、ほとんど確信したような面持ちだった。
「思い当たるどころか、ずばりその通りだと思う。なんで今まで忘れていたんだろう」
「それほど思い出したくないことだったんだよ。嫌なことほど覚えているって言うけれど、本当に嫌なことはなかったことにしたいのが人間なのよ。嫌なことを思い出させちゃってごめんね」
わざわざ謝ってまで僕にこのことを思い出させたのは必要があったからだろう。つまりは今日話すことになっていた重要なことに関係しているはず。となると……
「人間関係に関するトラウマを明らかにして、それを克服することが能力の制御に必要ってこと?」
「さすがヒラタ君! 七十五点!」
「残りの二十五点は?」
「能力の制御っていうところが違うかな。本当にトラウマを克服できるとね、見えなくなるんだよ。――ヒラタ君が能力と呼んで、私が体質と呼んでいるこれは、ある種の病気のようなものなのよ。これが今日話すことになっていた重要なことだよ」
なるほど、これは一種の病のようなものなのか。人間関係に関するトラウマを克服するという治療を施さなければならないみたいだ。
「じゃあ、この病気を治療をするためには具体的にはどうすればいいの? いきなり親友を作れとか言われても無理があるんじゃ……」
「そこまではちょっとわからないかなぁ。一般的には二十歳前後くらいに自然に治るらしいから」
「らしいって誰かに聞いた話なの?」
「ママから聞いたんだよ。私の家系はこの病気が発症しやすいみたい。ママはおばあちゃんから聞いたんだって」
遺伝的な病気なのだろうか。ん? 自然に治るっていうことは……
「自然に治るなら無理に何かする必要は無いんじゃない?」
「二十歳前後に治るっていうのはね、その頃になると人間関係に対する自分の態度っていうものが確立されるからなんだよ。他人の目を必要以上に気にしない、他人との距離間に左右されない自分が完成したときに治るってこと。でもヒラタ君は常に線が見えているでしょ。それって重症だよ。他人との距離を気にしすぎてる。だから何かきっかけが必要なんじゃないかと思って……。病気の原因がわかっているのとわかっていないのとでは全然違うでしょ」
確かに能力もとい病気の原因がわかり、いくらか気持ちが楽になった気がする。早急な対処法が無い以上は、リハビリのように徐々になんとかするしかないだろう。さしあたっては普通に周囲の人と接することからあたりから始めてみようか。
「ありがとう。ヨーコちゃんのおかげで今後の方針が見えてきた気がするよ」
「お役に立てたようなら嬉しいよ」
「でもこれが普通に治る病気だって言うなら、上手につかいこなしているヨーコちゃんにとっては治っちゃうのは少し残念なんじゃない?」
何気なく口にした率直な疑問だったが、彼女の口から出たのは予想外の一言だった。
「そう簡単には治らないと思うよ。――私も重症だから」
「えっ……。でも前は便利な体質だって言ってたじゃないか」
「実は、自分でもそう思いこまないとやってられないくらい重症なのよ。でも頑張ってるヒラタ君を見てたら自分もこの体質に向き合わないといけないなって最近は思ってるんだ」
そうだったのか。考えてみれば自分で病気と言うくらいだから彼女もなにかを抱えていてもおかしくはなかった。
僕のことを気遣って能力に関する情報を教えてくれて、そのうえ自分自身ですら心の奥に閉じ込めていたことを思い出させてくれた彼女の力になりたい。素直にそう思った。
「良ければ聞かせてほしい。ヨーコちゃんのこと」
「ヒラタ君ならそう言ってくれると思ってたよ。実は私も聞いてもらいたかったんだ」
そして彼女は語りだす。心の奥にしまいこんでいたその体質の背景を。
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