第14話 リヴィドーのままに

 花凛に新しい彼氏が出来たんじゃ無いかと疑って噴水まで尾行してきた俺は、花凛が由良三咲と待ち合わせをしていた事を知った。

 そして今……


 ふたりは、なぜか戦っていた……


 何だろうコレ……なんでこうなった!


 ふたりは、会って早々、少し会話を交わし近くの公園に移動した。そしてそのまま戦闘に入ったのだった。

 もちろん口喧嘩ではなくガチの戦闘だ。


 制服姿の女子高生同士が戦う姿は、かなり異様な光景だ。


 花凛のニーソハイキックが由良の左肩口に入る。よろけながらも体勢を立て直し右足でローキックを放つ由良。


 返しで右ストレートを繰り出す花凛。それをガードで凌ぐ由良。と一進一退の攻防が続く。何だか見えてはいけないものも丸見えだ。


 もう、帰ろう……あとは、若いふたりに任せて……

 君達は、リヴィドーの赴くままに戦いなさいな。


「がはっ!」

 がはっ、って女子高生から発生する音じゃないだろ!


 由良が、花凛の回し蹴りをアゴに受けて倒れていた。花凛を見ると片方の靴が、無くなっていた。


 どうやら、決着がついたようだ。


「圭っ、勝ったよ! あたし」

 花凛は、高々と右手を上げた。

 とりあえず気付かれていたみたいね、俺


「お前、今日病院じゃなかったのか?」


「スッポかした、負けられない戦いがそこにあるから……」


「格ゲーのセリフだろそれ、それで由良は、大丈夫なのか」

 由良は、ピクピクと動いていたので大丈夫だとは思うのだが。


 一応、そばに寄って様子を確かめようとした時、由良は飛び起きた。


「私は、諦めて無いから、ばーか、ばーか、ブースっ」

 花凛に罵声を浴びせた由良は、「圭、ごめんね」と言って顔を少し赤くして慌ただしく去って行った。

 その様子は、何というか残念な感じた。


「由良子は、相変わらず下品な奴だ」

 勝者の花凛は、悠然としてつぶやいた。


「それはそうと、お前、靴どこにやったんだ?」

 辺りを見回すと離れた場所にある砂場に片方の靴が落ちていた。俺は、それを拾ってきて花凛に渡してやった。


「ありがとうございます。ご主人様」

「デレても何もないからな」


「ちぇっ」

 悔しがる花凛は、少しかわいい。


「ねえ、圭は、何でここにいたの?」


 まさか、新しい彼氏が出来たかと思って心配でつけてきましたなんて言えるはずもない。


 これじゃあ、俺が花凛のことが好きみたいじゃないか。まあでも、嫌いじゃないというか、いないと困る。


 あれ、それだと……?


 花凛は、勝手に俺の日常に踏み込んで来て、勝手に好きだと言ってまとわりついて来た。だけどいつの間にか無くてはならない存在になっていたようだ。


 ー まいったな ー


「ぐ、偶然だよ。気が合うね」

 しどろもどろな俺。


「ふふふっ」

 見透かしたように花凛は、笑った。表情は、変わらないけど……


「帰ろうか」

 そう言った俺の腕に花凛が、しがみついてきた。柔らかい胸の感触に心臓が高鳴った。


「うん、ありがとうね、圭」

 花凛の言葉に何のありがとうかと思ったが、今はどうでも良かった。


 多分、俺は花凛の事が好きになったんだ。この問題だらけのメンヘラ女の事を。


 それから俺達は、駅までの帰り道を出来るだけゆっくりと歩いたのだった。


 ちょうど恋人同士がそうするように……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る