第13話 名探偵の困惑

「ねえ、圭は、あたしの事好きかな?」

 俺が、教室に着いた早々、花凛が尋ねてきた。いや、問い詰めてきた。


「お前、ひょっとして、この前の由良の事、気にしてるのか」


「その、圭が由良子と付き合っていたなんて知ったら、どうして良いかわからなくて、精々あいつの写真に針を刺すぐらいしか思い付かなくて……」


 しおらしい感じて言ってるが、怖いぞ、花凛。


「それは、花凛の勘違いだ、俺は、由良と付き合ってないから」


「でも、振られたって……」


「あいつが、俺を利用しようとしているのがわかったからお断りしただけだよ、むこうも本気じゃなかったしね」


「えっ、圭を利用するって」


「当時、まあ中学の頃なんだけど、あいつの友達連中が、彼氏比べみたいな事をやっていてさ、彼氏のいなかった由良は、焦っていたんだろうな、チョロそうな俺に付き合って欲しいって言ってきたんだよ、断りそうもない奴だと思ってさ」


「圭は、由良の事を嫌いだったの?」


「別に考えた事は、ないかな。特にドキドキみたいなのもなかったしね。もっと前には、買い物に付き合わされて散々おごらされたりしたから、やれやれと思っていたのもあると思うよ」


「圭に振られた由良は、誰か代わりを探したのかな」


「う〜ん、そんな話は、なかったかもな、あいつも俺の事で用心したんじゃないかな。でも相変わらず、誰かにおごらせたりしてたみたいだけど。なんだかんだ男子に人気あったからなあいつ」


「やっぱりそうか……」

 花凛がつぶやくように言った。


「何がやっぱりなんだよ、花凛」


「うん、あたしが選んだ人は、思ったより厄介な人だなあと」


 よくわからんが、そろそろ厄介者になってきたのだろうか、俺!


 教室に先生が、入ってきて、話は、そこで終わった。


 花凛の席は、俺の前の方にあるのだが、なんだかあいつは先生に見つからないようごそごそやっていた。


 放課後になり、てっきり花凛が、帰ろうと駆け寄ってくるものだと思っていたが、


「圭っ、今日は一緒に帰れないんだ、貴方の奴隷としては失格っ……」

 俺は、花凛の口をふさいだ。

 クラスのJK達が、ジト目で見ているような……いや、見ていた。


「なんか用事があるんだろ、それは気にしなくていいよ」


「う、うん、き、今日は、病院に行かないといけないんだ」

 怪しい! あやしい! なんで動揺してるんだ。


 確かに花凛は、昔の事故のせいで未だに病院に通っているとは言っていたのだが……


「それじゃあ、お勤め果たして参ります」

 受刑囚かよ!


 そう言い残してスタスタ行ってしまった。


「振られたか……」

 川嶋が、俺の肩をポンと叩いた。


「時間あるなら俺の彼女ミカエリちゃんでも見に来るか、圭」

「いや、遠慮しときます」

 川嶋は、ついに二次元に手を拡げ始めていたのだ。


 川嶋を放置したまま、俺は、玄関の下駄箱に急いだ。

 もちろん花凛を尾行するためだ。


 まあ、あいつに別の彼氏が出来てもしょうがないと思う。俺は、あいつに彼氏らしいことなんて、ひとつも出来てないんだから……。

 でも、やっぱりそれは、少し……いや、結構、さびしい。


 校門を出て辺りを見廻すと少し先に花凛が歩いていた。

 俺は、電柱の影に隠れながら跡をつけるというスタンダードな方法で花凛を尾行した。

 知らない人から見れば美少女に付きまとう完全ストーカーの出来上がりだ。


 花凛が向かった先は、思った通り病院では、なかった。電車まで乗り継いで向かった先は、前に由良と待ち合わせをした例の噴水だったのだ。


 花凛は、誰かを待っているようだった。


 やっぱり彼氏だろうかと俺がしょんぼりしていると待ち人が現れた。


 それは、由良三咲だった。


 多分、授業中に花凛は、由良にメールを打っていたのだろう。


 ホッとした俺だったが、この後の展開を考えると新たな不安感にさいなまれるのだった。

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