第12話 対決は蜜の味
花凛から届いたメールを見て由良は、不思議そうな顔をしていた。
いったい花凛は、どんな内容のメールを送ったんだろう……
俺は、さらに隣の席側に身を寄せた。花凛も同じように身を寄せたので4人席の片側しか使っていない状態となり、かなり不自然だ。
隣の席では、『腹黒天使 三咲ちゃん』が何やら行動を開始するのだろうか、メニューをパラパラとめくっていた。
「跡見くん、今日は私がおごるからさ、何か食べようよ」
跡見に、メニューを手渡しながら由良が気前のいい事を言った。
俺の過去の記憶によると由良が、男におごるなんてありえない事だった……
このカフェでは、スイーツの他にも軽食の種類が豊富でサンドイッチ、サラダ以外にもスパゲティやハンバーガー、スープカレーなんて物までメニューの中にはあった。
「じ、冗談は、やめてくれませんか。由良さんは、そんな事言っちゃ駄目なんですよ、絶対に」
好きな子が奢ってくれるなら、嬉しいもんじゃないのかな。まあ、遠慮するっていうのはあるかもしれないけど。
ただ、今の跡見の言い方は、なんだか嫌悪感を含んでるように思えるんだよな。
「スープカレーお待たせしました~」
料理が、届いた……俺達の席に……。
「てっ、おい、いつ頼んだんだ、花凛っ」
「さっきのミカエリちゃんのあらすじの時に、待ちきれず……しょんぼり」
俺のジト目に、花凛は、しょんぼりしていた……のか?
かなり嘘くさいんですけど……
「わかったよ、俺の分も頼んでくれたんだろ、隣もなんか頼んでるみたいだし俺達も食べようか」
「うん、圭は、優しいね」
花凛は、ここ最近俺に対して勢いが無くなったというか、うまく言えないが、穏やかな言い方をするようになった。以前の「圭っ、好き好き」という感じではない。まあ恋愛に疎い俺には、相変わらず女の子の心理を推し量ることは難しいのだけれどね。
腹ごしらえでもしながらも隣のようすでも伺うとするか。
パーテーションを挟んだ先に由来の嬉しそうな顔が見えた。反対側の席に目を移すと引きつった顔の跡見が何か言いたげなようすでオロオロしている。
な、なんだよ、コレ!
テーブル一杯に料理が並べられていたのだった。
フレッシュトマトのスムージー
バジルとトマトのパスタ
モッツァレラとトマトのサラダ
マルゲリータピザ
トマトの形をしたひんやりとしたゼリー
などの、全てトマトに関連したものばかりだった。
花凛を見るとなんだか考え込んでいるようだ。
「冷たいゼリーを同時に頼むなんて、鬼畜もいいところだわ、由良子の奴」
そこは、大事なところじゃないだろっ!
「あれは、花凛がメールで指示したことなのか、その、トマトの件……」
「圭、どうなるかはあの子次第だから」
花凛は、そう言って由良の方を指指した。成り行きを見守れと言うことらしい。
由良は、サラダのトマトにフォークを突き刺しながら跡見に話し掛けた。
「跡見くん、今日は、本当に私のおごりだから遠慮しないで食べてね」
そう言ってトマトを口に放り込んだ。
「いや、あの、由良さん、トマトの料理ばかりなんだけど、どうして」
跡見は、動揺してしどろもどろなご様子だ。
「うん、私は、トマトが死ぬほど好きなんだよ」
今度、トマトのゼリーをスプーンですくって食べる由良。よりトマト感のある逸品だ。由良の口元から赤い液体が溢れ顎を伝わってしたたり落ちる。
そのままの状態で、由良は恍惚の表情を浮かべゼリーを喉に流し込んだ。
「ああっ、美味しい、跡見くんも食べなよ」
由良は、ニヤリと笑い、跡見に料理を進めた。ミカエリちゃんの逆の行動を取るような指示を出したのは花凛だろうけどホラー感の演出は、必要だったのか。
口元からだらりとゼリーの汁を垂らした由良の姿は、ホラーというより……間抜けにしか見えない。
「由良子は、私を笑い殺そうとしている、あいつは、闇に落ちたよ」
よっぽどツボにはまったのか、花凛は、自分の太腿をバシバシ叩いている。
自分で指示だしておいて大概だけどな。
「違う、違うよ、ト、トマトなんか僕のミカエリちゃんは、ぜ、絶対食べないんだーーーーーーっ」
店内に響く魂の叫び声だった。もちろん跡見君のだ。
由良は、プチトマトの乗ったピザを掴むと跡見の口に無理やり突っ込んだ。
「おごりだから、食べなさいよね」
もう、暴力でしかない……
店に迷惑をかけ、跡見君は、由良を置いて逃げるように帰ってしまった。
こんなので本当に解決したんだろうか?
いや、ひとまず良しとするかな。
「圭、ありがと」
由良が俺に礼を言って来たのだが
「いや、礼なら花凛に言ってやってよ。俺は、何もしてないからさ」
「ああ、花凛もありがとうね」
由良の声のトーンは、かなり低かった。
「由良子、礼には及ばない、かなり楽しませてもらったから、まさか本当にやるとは思わなかったわ」
「はああ〜っ? あんたがやれってメールしたんでしょうが! 何よコレ、ビサあ〜んするって。腹が立ったから口に突っ込んでやったけど」
ふたりが、ぎゃーぎゃーやりあったせいで店の人の視線が、さらに痛い。
俺達は、料理もろくに食えず店から退散することにした。
待ち合わせた噴水の所まで来ると由良は、今日はもう帰るといって俺にまた頭を下げた。
「圭っ、またメールするね。あなたが、私をふったこともう恨んでないから」
にこやかな笑顔でややこしくなるようなセリフを吐いて由良は、去って行った。
直後、花凛の視線が俺の顔のすぐ横に突き刺さった。そのまま花凛は、俺をジッと見つめている。
ち、近いよ、花凛……
それは、花凛の唇が触れるほどの距離だった。
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