第11話 腹黒天使

 由良三咲は、いまミスターATMこと跡見君と向かい合って座っていた。俺と花凛は、店のパーテーションを隔てた隣の座席で待機して、というか様子を伺っていた。


 花凛は、なんだか落ち着きがない、さっきからスプーンで生ハーブティーのポットの中をぐるぐる掻き回していた。おかげで生ハーブティーの色が黄色く染まっていた。

 まったく挙動不審な人でしかない。


 店内には、控えめな音楽がかかっていたが耳を傾ければ隣の会話を充分に聞き取る事が出来るようだ。

 少し様子を見守る事にするか……


「あのっ、跡見君その格好っていったい……」

 由良は、早速切り出した。どういう意図で美少女キャラのTシャツを着て来たのかは、俺達の一番の疑問だ。


「あっ、これ気付いてくれた、へへ」

 気付かない方がおかしいし、ほめてないから


「実は、このキャラ大好きなんだっ、『腹黒天使 ミカエリちゃん』て言うんだ、由良さんに似てるよね。僕は、由良さんを最初みた時、3Dの世界で本物に巡り合ったと思ったんだ」

 なるほど、由良はこのキャラの実写版という事らしい。確かに腹黒は、あってるかも知れないが。


「私は、そんなに可愛くないし、その、格好もダサいし……。でもなんで今日そのTシャツを着てきたのかよくわからないんだけど」

 由良は、かなり引いているようだ。


「本当の僕を由良さんに知って欲しかったんだ。そしたらなんて事だろう由良さんが、今日は、正装で来てくれた、こんな偶然ってあるんだろうか、由良さんがこんなに身近な人だったなんて……」

 跡見君は、なんだかゾーンに入ってしまったようだ。完全に、逆効果だったのは間違いない!


 何か打開策は、ないかと俺は『腹黒天使 ミカエリちゃん』の情報をスマホで検索した。かなり人気のキャラなのか非公式のサイトがたくさんヒットしてきた。

 ええっと、この中であらすじの載っていそうなものは……あった!


『腹黒天使 ミカエリちゃん』の要約はこんなところだ。


【一部抜粋】

 ある日、天界の最高神ゼアスに叱られた美少女天使ミカエリちゃんは、泣きながら人間界に家出することを決意する。日本という国の堕天町に舞い降りたというか落下したミカエリちゃんは、誤って気の弱い少年 ミツグ君に大怪我を負わせてしまう。こりやさすがにまずいなと思ったミカエリちゃんは、天使の力でミツグ君を介抱するのだが、目を覚ましたミツグ君は、すっかり天使が助けてくれたものだと勘違いしてミカエリちゃんに恩返ししたいと申し出た。ミカエリちゃんは、内心ニヤリとして言った。「あなたの家でわたしがずっと見守ってあげますよ。でもいまは、お腹がすいているのでなんか、おごって下さい。それとわたしは、トマトが死ぬほど嫌いなので注意して下さいね」その後、ミカエリちゃんの要求に応える為に悪戦苦闘するミツグ君のバイトライフを描いたハートフルコメディーです。

【以下省略】


 長いしハートフルでもないよ、これ……

 しかも何だか今の由良の状況に合致しているような気がしてならない。


 一緒に内容を読んでいた花凛は、何か考えていたようだが、突然メールを打ち出した。


「花凛、お前どこにメールしたんだ?」


「うん、由良子にメールした。うまくいくかわからないけど」


 どうやら花凛の打ったメールは、由良に届いたようだ。由良は、スマホを見ながら内容を不思議そうな顔で見ている。


 俺も不思議そうな顔をしていたのだろう。

 花凛がヒントらしく付け加えた。


「圭、テーマは、幻滅だよ」

 どうやらウチの腹黒天使は、結構自信があるらしい。

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