第10話 ボスキャラは突然に

「超恥ずかしいんですけど!」

 会って早々、由良が口にした言葉だ。


「完璧だよ」

「完璧だわ」

 俺と花凛は、ハイタッチを交わした。

 まるで文化祭の準備が完成したときのような高揚感だった。


 由良は、ネルシャツにダサいジーンズを着こなし背中には、黄色いリュックを背負っていた。帽子は、野球帽を指定したのだか、何故か麦わら帽子を持って来ていた。


 麦わら帽子を被れば恐らく鍬が似合うのだか今は、帽子を手に持っていた。


「由良子、今日は、あなたのこと……………見直したわ」


「ふざけるんじゃないわよ、今の間は何なのよ、本当にこれで大丈夫何でしょうね」


 由良三咲の今日のスタイルは、俺と花凛が相談の上決めたものだ。いわゆるオタク系のファッション(オトコ用)をイメージしたものだが、あえてTシャツではなく薄めのチェック柄のシャツをチョイスしたのは、どことなく英国風のテイストを取り入れようとのこだわりだ。キャラTだと確実に嫌がるしね……


 ちなみに、花凛の今日のスタイルは、白のカットソーにショートデニムを合わせてキャスケット帽を被っていた。もちろんニーソックスは、はずさない。

 どうやら動き易さ重視のようだ。


 俺もいっそのことジャージで来ようかとも思ったがかなり目立ちそうなのでやめました……


「さて、戦場に向かいますか」

 由良を先頭に距離を取った俺たちは、後を付いて行った。ミスターATMこと跡見君との待ち合わせ場所に向かうためだ。


 由良の好感度を下げて彼の気持ちを冷めさせるという単純なショック療法だ。強引な方法だと悪化させる可能性があるだろう。


 由良が待ち合わせのカフェに入ったのを見届けて俺たちも帽子を深くかぶり直して準備を整えた。


 少し遅れて店内に入った俺たちは、由良の位置だけ確認すると直ぐにカウンターで注文をした。


「まるごとぎゅぎゅっと絞ったアイスコーヒーと、コトコト煮込んだ水を贅沢に使った生ハーブティー下さい」

大概な名前のメニューだ、流行りなのだろうか……


 注文を受け取った俺たちは、店の仕切りを利用して由良たちの反対側の席に座った。

 見つかった時に偶然を装う事も想定済みだ。


 耳を澄ませると横の会話が、聞き取れる……


「由良さんが、そんな人だったなんて信じられないよ……」

 どうやら、出だしは、好調らしい。


「逆に、跡見君の方こそ、どういう事なの」

 あれっ、なんかおかしい……どうした由良っ


 花凛は、少し背を伸ばして隣を覗き込んだ。

 その瞬間、花凛の目が点になったのが分かった。花凛は、事故のせいで表情が作れないのだが、それでも驚いている様子がわかるほどだった。


 俺は、恐るおそる隣を覗き込んだ。


 う、嘘だろっ!こんな事って……

 思わず声が出そうになった。


 そこには、美少女キャラのプリントされた痛Tを完璧に着こなすミスターATMの姿があったのだ。


 これは、手強いぞ ……。


 俺と花凛は、お互いの目を合わせ小さく頷いたのだった。

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