第8話 小さなキッカケ
「犯人は、ずばりミスターATMね」
花凛は、推理小説の探偵のような口調で言った。それは、さっき本人から聞いたことなので分かっている。
ただ言いたかっただけだろう。
「言っとくけど、私には、まったく見に覚えが無いんだからね」
由良は、髪に指をクルクル巻きつけながら平然と言い放った。
「ふっ、昔からその癖は、変わらないのね。あなたは、嘘をつく時、よく指を髪に絡ませていたわね、由良子」
「会って2回目なのに私の癖が分かるわけないでしょう、あと由良子ってなによ!」
「お前ら、話が進まないだろう。由良、なんでミスターATMは、ストーカーになったんだよ」
「その前に、言っときますけど跡見は、いえ、ATMは、彼氏じゃないからね」
わざわざ言い直す必要あったか、ATMって
「私は、結構お似合いだと思ってたけど、ATMとあなたは」
跡見君だろ、もはやミスターすら無いし。
「冗談やめてよ、あいつは、ただの気前の良いだけの人だから」
「由良、どうして跡見は、ストーカーになったんだ」
「わからない、だけどもう会わない方が、良いかも、と言った頃からかな」
確実にそれだよな、理由
「実際どんな事があったんだ」
「うん、最初はメールなんだよ、見てよこれ」
#由良にあんな事を言われても僕の恋の炎は、まだゆらめいている、由良だけに
キミが好きだーーつ
#僕は卵の白身より黄身が好きだ、
そしてキミが好きなんだーーっ
#由良三咲、ゆら三咲、
ゆらみさきみが好きだーーっ
これは、痛いというよりもウザい、ほのかに親父的エッセンスも入っている。
「由良三咲、愛されているなっ」
「うん、私もそう思っていたんだよ」
えっ、ちょっと待てこれって普通なのか?
俺の感覚がずれてるのか。
「このメールが、1日100件を超えるまではね」
「「えっ」」
由良の話によると最近文房具や小物が無くなったりする事が増えて来たそうだ。
このままいけば、どんどん、こじらせていく事になるだろう。
状況を聞いた俺たちは、良い方法を考えるので今日の所は、由良と別れる事にした。
俺がそうしたのだ。花凛は、もう少し話したそうだったが……
「なあ、この近くにランチの美味しい店があるみたいだぞ」
お腹が、空いているのか珍しく圭の方から、そう提案してきた。
私が、断る理由は、まったく無いし、むしろ嬉しい提案だ。
こんな時、普通の女の子ならニッコリ微笑むんだろうな……そんな考えが頭をよぎった。
「圭っ、ごめんなさい」
「どうした?」
「あたし、メール送り過ぎた、ストーカーだよ、あれじゃあ」
圭は、何も答えないで笑った。どう言う意味に取ればいいだろう。
ランチを食べた後、ふたりで映画を見た。
あたしの前から見たかったラブコメアクション映画だ。めちゃくちゃ面白かったけど時間があるなら由良の話にもう少し付き合ってあげれば良かったのにと少し不思議に思った。
圭は、そんなお節介な奴のはず……
その後は、ボーリングしてゲームセンターでUFOキャッチャーだ、最期にカラオケが終わった頃には随分日が暮れていた。今日は、随分イベントの多い日だ。
圭が、こんなアクティブだとは、結構以外だった。これは、ぜひ圭日記に追加しなければ……と思いつつわたしは、圭にぴとっと張り付いた。
こうしていると安心する……。
わたしがずっと探していたものだ。
わたしの大切な物、これが恋なんだと思う。
「今日は、楽しかったね、圭っ」
「楽しかったけど、ちゃんと教えろよな、花凛」
圭は、何だか少し怒っているようだ、教えろって何だろう、わたしなんかしたかな。
「お前、今日誕生日だろ」
そう言って圭は、今度はニコッと笑った。
圭は、可愛いラッピングのされた小さな箱を取り出すとあたしに差し出した。
「誕生日おめでとう、花凛」
あたしは、驚いてそのプレゼントを受け取った。だって誕生日は、誰にも教えていないのだから……
「何で、わかったの、私は誰にも教えてなかったし、教える必要ないと思っていたから……」
驚いたせいか何だか心臓がどきどきする。
そして今わかった、圭は、この為に由良を早く帰らせたんだって……
「メールアドレスにさ、誕生日の日付け入っていたから、多分そうかもと」
圭は、あっさり私の予想を超えてくる、
あたしの期待しているものを軽々飛び越えてくるんだ。
わたしの鼓動は苦しいくらいに激しくなってきていた。驚いたからでも、プレゼントをもらったからでもない。
そうだ、
わたしは今、本気で圭に恋をしたんだ……
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