第6話 いちばん好きなコト

 古川花凛が、剛の女なら、由良三咲は、柔の女である。これは、ふたりの被害者?である俺の意見だから間違いない。


 違う見方をするなら花凛が、与える者なら三咲は、奪い取る者なのである。

 相手を絡め取って搾取することが、由良三咲の本質であり能力なのである。


 基本的には、人のものを欲しがるタイプと言い換えればわかりやすいのかも知れない。

 まあ、俺には彼女に与えるようなものは特にないのだけれど…


 俺は、由良が素通りしてくれる事を願っていたのだが、たいくつしていた由良は、まるで宝物を見つけたように嬉しそうに店に入ってきた。


 入ってきた、ふたりは早速この店の洗礼を受けていた。

 ちなみに、由良が注文したのは

 開店当時の在庫で作ったラブリーココアと

 ドジっ子シェフの落とした抹茶ミルフィーユ

 だった……

 確実に腹を壊しそうだ。


 注文をした由良三咲は、一直線にこちらに向かってきた。一緒にいた男『ミスターATM』は、由良の分の会計をしているようだ。


「圭っ、偶然だね、こんなところで会えると思ってなかったよ。元気だった?」

 由良は、よほど退屈していたのか嬉しそうに話し掛けてきた。


「ま、まあね、由良こそ元気だったかな」

 俺は、お愛想程度の返事を返す。


「私は、元気ないよ、圭もいないしさ」

 由良もお愛想の返事を返してきた。


「あちら彼氏だよね、相変わらずモテるね」

 一緒にいた男は、会計を済ませ今は、近くの席に大人しく座っていた。


「いや、ただの友達だよ、そちら圭の彼女?すっごい美人だよね」

 これも由良のお愛想だろう……


 俺が、何か返答する前に黙っていられなくなったのか花凛が口を挟んだ。


「あなた、由良って言ったかしら、私の圭に色目を使うのはやめてくれないかしら、私達は、今から子作りについての計画を立てるんだから」


「はあぁーっ?いみわかですけど、色目なんか使ってないけど」

 いみわかって古いぞ、由良。


「まず、第1に圭と親しげに呼んでいる、第2に自分の彼氏を放っておいてこちらに来ている、第3に圭と同じ空気を吸っている、以上の理由からあなたは、圭に色目を使っている、はい、論破!」

 長いし、3番無理だろっ、花凛!


「あなた、理路整然と攻めて来るなんて卑怯だわ」

 いや、3番についてツッコめよ!由良!理論的でもないし倫理的ですらないから


「ふふっ、所詮あなたも、にわか圭なのよ」

 にわか圭ってなんだ、似たような硬いせんべいならしってるが……。

 花凛は、随分攻撃的だ。


「にわかとは、ちょっと聞き捨てならないわね、圭フリークの私に対して」


「フリークって笑えるわね、残念ね私なんか圭マニアなのよ」

 ほぼ同等の意味だぞそれ!花凛っ


「だいたい、彼氏いるのに圭にちょっかい出そうなんて失礼だと思わないの、なあミスターATMっ」

 お前が一番失礼だろ!花凛よ


「そこまで言うならわかったわ、圭クイズで勝負をつけましょうか」

 由良が、なんだかおかしな提案をし出した。


「ルールは、お互いに問題を出して答えられなかったら負けだから」

 ハードル高すぎるだろ、花凛。


「最初は、由良からでいいわ」


「後悔しないでよ、第1問、圭の中学でのあだ名は」


「かんたんよ、答えは、あだ名は付いてないわ」

「くっ、正解よ、なんでわかったの」


「中学の同級生の川嶋があだ名で呼んでないからよ、次は私ね、圭の好きな生き物は?」


「クマムシっ」「正解、やるわね」


 と、こんな具合でふたりは、正解を重ねていった。どうやら俺には個人情報の保護は、かかってないらしい。


「じゃあ、私ね、圭の一番いい所は」

 花凛が言った、もはやクイズではなかった。

 だか、ちょっと気になる内容だ。


「そうねぇ、うん、優しい所だわ」

 由良は、少し考えてから答えた。


「ぶぶー、不正解!」

 花凛は、初めて間違いを告げた。


「ええっ、じゃあ、なんなのよ、いったい」


「圭の一番いい所は、ちゃんと伝えてくれるとこだよ、他の人が目を逸らすような事でも圭は、向き合って逃げずに伝えてくれる、それが、圭だけの一番いい所……」

 恥ずかしくて、今逃げたいんだけど……


「くっ、今日は帰るわ、なんか面白くない」

 そう言うと由良は、一緒にいた男とそのまま店から出て行った。


 由良が、帰った後、花凛がつぶやいた。

「あの女、このまま退いてくれればいいんだけど……」


 まったく、フラグを立てるのはやめて欲しいものだ……

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