第5話 デートバトル
古川花凛は、ひと言で言うと美人だ。
つまらない表現かも知れないが、多くの人の印象は、そういう事になると思う。
スタイルは、少し細めだが、胸がないという訳ではない、むしろあるのだ。
ある意味、男性、女性の理想を兼ね備えていると言えるだろう。
そんな彼女が、どうして自分にまとわり付いているのか不思議でならない。
ただ、ひとつだけ思いあたるのは、俺が、今のところ彼女に一番信頼されている人間だからじゃないかという事だ。
これは、本当に恋愛なんだろうか?彼女だけでなく、自分にとっても……
「けーーーーーーーーーーうぃっ」
たった2文字の俺の名前は、そんなに長くなった覚えはない。うぃっ、てなんだ。
俺は、待ち合わせのイヌの像のところで待っていた。今日は、約束のデートの日なのだ。
遠くから大声で呼びかけられた俺は、周りの人にクスクス笑われていた。花凛が俺の方向に一直線で向かって来る様子でバレバレだった。
もちろん無表情なので俺が悪い事をして追いかけられているようにも見える。
「圭っ、お待たせっ、ニコッ」
まったくニコッとは、していないが……
「そんなに待ってないよ。待ち合わせの時間も過ぎてないし」
今日の花凛は、短めの黒のフレアスカートに上は、白のフリルブラウスを着ていた。髪をツインテールに結び、いつものニーソックスを合わせていた。
どうやら、今からメイドカフェのバイトだろうか。
「違うよ、今日は、圭専属のメイドの設定なんだよ、ニコッ」
どうやら俺は、メイド好きの設定らしい。
そしてニコッは、ただちにやめて欲しい
「しかし、待ち合わせの場所をなんでここにしたんだ。忠犬ペスの所でなんて謎掛けレベルだぞ」
待ち合わせのイヌの像は、有名なアレのことではなく、このローカルな響きが親しみを誘う忠犬ペスの像だった。俺は、1時間程かけてやっとこの像に辿り付いたのだった、マジで……
「この像には、ジンクスみたいなものがあるんだよ」
な、なんだ、この語りべみたいな流れは
「まさか、この像で待ち合わせると恋人同士になれるとか……」
花凛は、静かに首を振った。
「この像で待ち合わせたカップルは、たくさんの子宝に恵まれ……」
おいっ、御利益重すぎだろう、どうりでご夫婦多いと思ったわっ!
「ペスは、101匹の子供に恵まれた忠犬なんだよ」
忠犬関係ないだろ!あと白黒のブチ柄じゃないから
俺達は、駅前のペス像から商店街の方に向かって歩いていた。花凛のお気に入りのカフェがあるようなのだ。そこで、今日の予定を決める事にした。
この店は和風カフェのようで、抹茶のスイーツがたくさんショウケースに並んでいた。
まずは、カウンターで注文をするようだ。
「ふたりのアツアツぶりに思わず店長も苦笑いレモンティーと、はいはいワロスワロス店長のやけくそ抹茶パンケーキ下さい」
おいっ、ひどすぎるだろうコレ、パンケーキ絶対まずいよな!
「はい、かしこまりました。お連れの方もご注文どうぞ」
いったいなんの罰ゲームだよ……
俺は、メニューを覗き込んだが独創的なメニューばかりだった。注意書に『間違いがございませんように正式なメニュー名でご注文下さい』とわざわざ書いてあった。
どう考えても嫌がらせだ。俺がやけくそになるだろ
こうなったら比較的、恥ずかしくないメニューを選ぶしかない。
「ぎ、玉露、玉露、大事な事だから二回言いましたコーヒーと、お風呂にする、ご飯にする、それともわ・た・シフォンケーキをく、下さい」
ぐあーーーっ、玉露かんけーねーじゃん‼︎
「かしこまりました。最後のご注文は、女性店員がお客様に食べさせるサービスが付いてますが……」
「結構です、お構いなく」
俺は、即答した。
「圭は、やっぱり私のこと大事に……」
いや、違うから。
まったくもって、これだけのことで恐ろしく疲れきってしまった。
そう言えば昔一度だけこんな風に付き合わされた事があったよな。由良三咲だったか……
俺と花凛は、外の見えるテーブルに席を取った。通りの人の流れを見ながら花凛は、毒舌を振るっていた。
「圭っ、あのカップルは、男がATMだと思うよ、女の子つまんなそうにしてるもん」
花凛の見ている方向を振り向くと外を1組のカップルが歩いていた。
俺は、何気なく女の方を見た。
向こうも俺の視線に気付いて目が合った。
ガラス越しに声は聞こえないが女は何かつぶやいた。
"そいつは、由良三咲だった"
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