第3話 スマイル0円

 昼は、だいたい川嶋が誘いに来る。


 ここで誤解しないで欲しいのだが、川嶋は決してダメじゃないんだ。ダメって言うのはもちろん見ための事だ。


 すごいイケメンかと言うとそこまででは無いが、しかし彼女ができない感じかと言うとそうではないくらいの顔面偏差値を備えた奴なんだ。

 そこはかとない魅力を微かに漂わせたナイスメンズなんだ。


「要するに普通だって事でしょう」

 花凛が、俺の苦労を台無しにした。


 俺達は、クラスの連中を避けて屋上でランチとしゃれ込んでいた。

 例のお気に入りの女の子に振られた川嶋を俺は、全力で慰めていたのだ。


「元気だせよ川嶋、俺にだって超かわいくて優しい、モデルみたいな彼女ができたんだ、お前にできないわけないじゃん」

 なんで俺の代わりに励ましてるんだ、花凛っ

 しかも、モデルは、言い過ぎだろう。


「そうだよな、圭の言う通りだよ。俺どうかしてたよ」

 いや、いや、いや、どうかしてるの今だろ。

 明らかに俺が、しゃべってないだろ!


「よし!」

 よし、じゃないだろ、早く家に帰って休めよ


「しかし、川嶋、そんなにショックを受けるような事を言われたのか?」


「じつは……」

 川嶋は、その時の様子を語りだしたのだ。


 川嶋は、ここ1ヶ月程、そこのハンバーガー屋に通い詰めていたのだが、ハンバーガーを頼んだ時の彼女の笑顔が見たくて何度もレジに並んだそうだ。毎日、毎日彼女の為に……


「ストーカーだな、川嶋」

 花凛が言った。それは俺が心にそっとしまった言葉だった。

 おい、花凛っ!やめてあげて頼むから


 放課後、俺達はそのハンバーガー屋に行く事になった。彼女の誤解を少しでも解ければと思ったからだ


「花凛は、無理に来なくてもいいんだぞ」

 花凛が来ると逆に嫌な予感がしたからだ


「あたしは、スト嶋の助けになりたいんだよ」

 助ける気まるでないよな、お前っ


「まあ、女の子がいた方がいいか」

「そうだよ圭、あたし女の子だよ」

 くねくね、するのはやめてくれ!


 問題の店に着いた。いや、問題なのは川嶋の方だけど……


 まず、俺と花凛が、先に店内を偵察する事になった。


 花凛は、俺の後に隠れて付いてきた。

 隠れる必要は、まったくないのだが……

 と言うかくっ付きたいだけだった。


 カウンターに行くと川嶋の言っていた女の子がいた。


「いらっしゃいませっ」


「中々かわいい子だったが、花凛の美しさにはかなわなかった」

 もちろん、俺の言ったセリフでは無い。


 まあ、川嶋好みのかわいい子だとは、俺も思うが。


「カップルセットふたつ」

 おいっ、何頼んでる、花凛!

 カップルセットとは、飲み物にストローが2本ささってるアレのことだ。


 しかもふたつとは、俺と川嶋の組み合わせか? さらにちがう誤解を受けそうだ。


 とにかく偵察が終わったので川嶋を呼ぶ事にした。今日は、川嶋の爽やかさを印象付けることが目的だ。


 川嶋には、注文は、一つにしろとキツく言ってある、大丈夫だ。


「いらっしゃ……いませ」

 女の子が、動揺していた、だいぶこじらせたらしいな。


「カップルセットひとつ」

 おいっ、ダメだろそれ頼んじゃ‼︎

 色んな意味で……


 なんで星の数ほどあるメニューからそれをチョイスしたんだ川嶋っ


「ふっ、かしこまりました」

 喜ぶなよ川嶋、それスマイルじゃ無いから


 花凛が急に立ちあがって、カウンターに向かった。


「おい、待てよ花凛」


 女の子の前に立った花凛は、カウンターをバンと叩いて言った。


「あんた、人の気持ちを鼻で笑うんじゃないわよ、川嶋は、大好きなあんたの誤解を解こうと思って恥ずかしい思いして来てるんだからね!」


 終わった、何もかも……


 そう言って花凛は、店を出て言った。

 俺は、花凛の後を追った。

 やってしまったものはしょうがない。


 花凛が、人の気持ちを誰よりも大事にしてる事を俺は知ってるんだから


 花凛は、素直に俺に謝った。

 俺は、花凛の優しい気持ちを怒るはずもなかった。


 川嶋には、明日謝ろうと俺は、思った……

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