第4話

「……俺は数え切れぬ人を斬った。なのに……ただ一人、たった一人を斬れず、

何も出来なかった罪人だ」


 男は涙を流しながら、満足そうに、苦しそうに言葉を吐く。

 大王はそんな男を黙って見続けた。

 副王だけがはっとしたように暫し考えて、大王に進言する。


「大王、『み』の大王より連絡頂いてる例の件ですが……」


「分かっておる。例の件、これで納得がいった。

 『み』の大王に伝えろ。この案件『とお』の大王が責任を負うと」


「はは」


 大王は椅子より立ち上がり、男の元に近づく。


「お前の『罪』はよく分かった。望む通りワシが裁こう。

 だが、その前に――」


 大王が言い終わるのと同時に、血だらけだった騎士は傷が治り、

汚れた鎧の変わりに綺麗な衣服を着ていた。


「これは話への礼だ。さぁ、この者を相応しき場へと連れて行け」


 大王に言われて、獄卒の一人が男の背中を押すように連行する。

 男は大王に最後に深く頭を下げると、獄卒に従って別の扉へと向かう。


「待て」


 扉の前まできた男の背中に大王が声をかける。


「ある死者の話なのだが、そいつの言い分が奇妙でな。

 『私は罪深い』の一点張りで刑を上げろと言う」


 大王はわざとらしくセキをすると、


「普通、刑を下げろと言う奴はいるが、上げろと言うのは珍しい」


 男は扉に向かったまま、黙って話を聞いている。


「そいつもまた『たった一人が斬れなかった』と言い張っているらしい」


 黙って聞いていた男の肩が一瞬震える。


「他の大王がほとほとに困り果てたので、ワシが裁く事にした。

 恐らくお前と同等の刑となるだろう」


 男が大王に振り返ろうとする。

 だが、その前に扉が開き、獄卒が男を扉へと押し込む。


「行くがよい、相応しき刑場へ――」

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