第2話
一人、また死者が大王の裁きを受けて刑罰の場へと向かう。
誰も居なくなった『間』で大王が少し嬉しそうに副王に声をかける。
「副王、この案なかなかの当たりだな。自己弁護は変わらんが、言い訳が新鮮で実に楽しい」
「それは良き事です」
「さっきの男など、ありもしない恋の話を延々と繰り広げたが内容は実に楽しめた」
「先程の男は……数十の結婚詐欺の上に3名を殺害、舌を抜かれ続け、焼けた硫黄を飲まされ続ける刑が1499年。
ま、それだけの経験があるのであのように話が上手かったのでしょうね。所でこの刑期は……」
「分かるか? 楽しませてもらった礼に1年程減刑してやった」
副王は複雑な表情を浮かべる。
だが、この程度なら大王がやる気を出してくれる事に比べれば問題ないと副王はすぐに表情を元に戻す。
また一人死者がやってくる。
大王は久しぶりに仕事を楽しく感じながら、死者が来るのを待つ。
その死者は鎧に身を包まれた騎士風の若い男だ。
若いとは言ったが、その眼光は鋭く、相当な人生を送ったのは
首からは赤い血が滴り落ちて、どうやらそれが絶命の理由のようだ。
「……ほう」
大王は即座に権能により、この男の人生の全てを見通した。
――この男、小さい頃に両親が戦争で死に孤児となったが、人に拾われ剣術を学び、強くなって数え切れぬ戦場で人を殺し続け、終には国一番の剣士と呼ばれたが、王国滅亡の際、敵陣で最後まで敵兵を殺しながら死亡している。
「副王よ、どう見ても『恋』などなさそうな感じよの」
「大王、まだ早計かと。本人の口より聞く事に意味がございますれば」
大王はそれは尤もだと思い、目の前の死者に対して口を開く。
「ここは最後の『間』、本来はお前達の申し開きを聞いて量刑を決める場所だが――」
大王が話す途中、それを遮るように男が口を挟む。
「申し開きなどない。俺は……十分な罪を犯している」
普段ならばこのような返答、即座に刑罰に処する所だが、大王は今大変機嫌が良かった。
「……申し開きがないか、実に結構な事だ。だがな、ワシが求めるのは今回申し開きではないのだ」
男は大王の言葉に怪訝な表情を浮かべる。
「お主に問う――お前は『幸福な恋』をした事があるか?
もしくは別の話でも構わん。ワシが楽しめれば特別な恩赦を与えよう」
男は大王の言葉に少し驚いたようだが、すぐに頭を振って大王に答える。
「俺のような者が……生まれた時から血と鉄の世界しか知らぬのに『幸福な恋』などある訳がない。話と言ってもただ、血と鉄の話しか知らぬ」
大王は少しがっかりしたようであるが、ある程度は予想通りだったのか、副王に『終わりにするか?』と視線で告げる。
副王は首を軽く振ると、男の方に向き直り、声をかける。
「お前の人生は確かに血と鉄と死の世界だったろう。だが、お前は死の前に『それ以外』を得ている」
副王の言葉に男の表情が険しくなる。
その目には『何故それを』と疑念が込められる。
「お前はこの後、永遠の火で焼かれ、最後は塵となる。
良いのか? そのままで。お前が得た『それ』が何か分からぬままで。
ここは最後の『間』、今を除けばそれは永遠に分からぬぞ」
副王が言い終わると、男の両目から一筋の涙が流れる。
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