幸福な恋

うぃーど君

第1話

「……飽きたな」


 天井すら分からない広い空間に、不満を告げる声が響き渡る。

 謁見の間のような部屋。

 その玉座に当たる椅子に男が座っている。

 重厚で豪華な椅子に座るその男、体格は人間の4~5倍、まるで巨大な獣を連想させるような風体ではあるが、その衣服は豪華且つ華美かび、まさしく王者の風格を漂わせている。


「『とお』の大王、そう仰らずに。これも仕事でございます故。」


 そう声をかけたのは脇に控えている男であった。

 体格、風体共に普通の人間だが、その瞳には人にはない理知の光が宿っている。

 大王は脇の男に視線を向けつつ、心底嫌そうに話す。


「……しかしな副王、ワシもそろそろこの流れには心底飽いたぞ」


「お気持ちはお察ししますが、この『間』の決め事ですので。

 しかし、大王のお気持ちも分かります故、はてさて、困りましたな」


 副王は口元に手を当て、暫し思案にふける。



 ここは死者が行き着く場所。

 生前の罪業により選別され、相応の刑罰の場へと向かわされる前に訪れる最後の『間』である。

 ここでは大王と副王の二人に対し、死者が最後の申し開きを許される。

 それは自身の罪を減刑出来る最後のチャンスでもあるので、大概の死者は大王と副王に自分が如何に罪が無いかをアピールする。

 ただし、大王と副王はその権能けんのうによりその者が生きてきた全てを見通す事が出来る。

 それ故に減刑を目的に虚偽を言う者は更なる罰をつけられる場所でもあった。

 全てを見通せるので本来は死者より話しなど聞く必要はないのだが、この『間』の規則で必ず話を聞いて罪の増減を決めねばならず、大王はほとほとに飽いていた。


「どの死者も同じような事しか言わん。この『間』などもう閉めた方がよほど効率が良いのではないか?」


「大王、お気持ちはお察ししますが、そのように言うと天主より怒られますよ」


 副王はそう嗜めながらも、1つ提案を持ちかける。


「大王、どうでしょうか。次の死者より少し趣向を変えまして、

 『申し開き』よりもこちらの『質問』に答えさせると言うのは」


 大王は興味が沸いたのか、副王に首を向け続きを促す。


「この『間』の性質上、『申し開き』ではどうしても同じような訴えばかりで大王が飽きられるのも道理。

 故にこちらが用意した『質問』に答えさせて、判定するのも一興かと」


 恭しくそう進言する副王に、大王は自身の髭を擦りながら、


「なるほど、確かに趣向が変わって悪くないな。

 そやつが何を語っても結局判定は出来るし、何より同じ事をこれ以上聞かされないのが良い。

 それで、どのような『質問』にするつもりだ?」


 副王は少し考えてから大王に進言する。


「基本どんな質問でも良いのでしょうが……『幸福な恋』など如何でしょう?」


 副王の言葉に大王は満足げに頷きながら、


「面白いな、それでは早速次よりそれでいくとしよう」

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