05

 扉のガラス越しに廊下から教室内を覗くと、二人組の青年と少年の姿が見えた。

 髪を振り乱して心底楽しいといった表情でドラムを叩く青年と、真顔で、だが青年を見ながら合わせるようにギターを弾く少年。

 キラキラと輝く、青春の一ページを見ているようだ、と思う。

「〔きれいだ……〕」

 ぽつりと思わず口に出したと同時、ギターの少年と目が合った。

 すぐに演奏を止めた少年に気付いた様子で、青年も手を止める。

 それから二人は少しやり取りをして、青年がリンの方に歩み寄ってきた。

 ガラリと戸を引き開けて、小首を傾げる。

「どした、こんな所で? 入部希望か?」

「あ、いや、通り掛かりアル。何部アルか?」

 正直、リンが小柄なのはある。あるのだが、この青年はなかなかに長身だ。見上げなければ顔が見えない。

「ああ、軽音――…………って、あれ? 制服……」

 ふと、青年が気付く。

 リンが着ている制服は、彼らが着ているそれとはデザインが違っている。

「うん? 制服?」

「まさか、専攻科の人っすか?」

「ああ、そゆこと。そうアル、専攻科一年のチェ・リン、ヨロシク」

 驚いたような、今にもひっくり返りそうな声と表情で問われて自己紹介を返すと、一歩後ずさった青年は慌てた様子で深々と頭を下げた。

「スンマセン! 俺、年下だと思って……!」

 あまりの勢いに、一瞬驚いて。

 それから何を言われたのか反すうして、ああ、とリンは笑う。

「良いアルよ。慣れてるし、元々敬語使われるの苦手アル。名前もリン、敬称も敬語も別にいらねーアルよ」

「でも先輩っすし……」

「本人が良いって言ってるだけじゃダメアルか?」

 まだ気にしている様子の青年に苦笑を向け、顔を上げた青年に再びにっこりと笑いかける。

 そうしていると、青年の背後の方から少年が顔を出した。

 何か言うだろうか、と思う間もなく、少年が青年の背をバシッと叩く。

「でっかいのが入口塞いでちゃ邪魔なんだし」

 顔立ちも体格も、どう見ても少年が青年より年下に見えるのに、態度は少年の方がデカい。指摘されて、青年も素直に道を空けている。

「本人の言う通りにしてたらいんじゃない?

 ね、リン?」

「ん、そゆことアル」

「僕は八千草麗、こいつは成宮仁」

 見目はどうも気難しそうな少年だが、麗は思ったよりもずっと気さくなところがあるようだ。一方で、金髪姿で見目はヤンキーそのものな青年――仁の方がお堅い部分があるらしい。

 本当に、自分も含めてのことだが、見た目で人は判断出来ないなと思う。

「で、ケーオンって結局は、吹奏楽と何が違うアルか? さっき聴いた感じからは、えーと……ロック? みたいなイメージだったアルが」

 ギターはともかく、ドラムは吹奏楽では見かけないものだ。

「そうそう、ロックバンドみたいな感じで活動してんだ。今は部員二人だから、出来る曲も少ねぇんだけど」

「ふーん」

 短く簡単な、説明とは言い切れないような説明にも頷いてみせ、リンは少し考える様子を見せる。

 音楽は好きだ。歌も、曲だけのものも。

「それ、全くのド素人でも入部して良いアルか?」

「え、入部してくれんの? 部員欲しかったんだよな~」

「かなりスパルタでも良いなら教えるくらいどってことないんだし」

 音楽は、好き。だが本格的にとなると全くの専門外でド素人だ。

 だが二人はそれにも好色を示してくれた。

 これからは少し、今までよりももっと放課後が楽しくなりそうだ。

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